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第一夜 夜の路地で

「今日は...無理だな」


バイト先から帰宅してきたのは、夜の十時。

カバンを椅子に放り、冷蔵庫を開ける。中身は、昨日の残り物と、期限が切れた牛乳。

炊飯器の保温は止まっている。さすがに、今からご飯を炊く気力はない。


最近は節約のために自炊しているけど、こういう日は例外だ。

最寄りのコンビニまで、徒歩五分。

財布とスマホだけポケットに入れて、俺は夜の外へ出た。


高校二年生。両親は数年前に亡くなって、今はアパートで一人暮らしをしている。

学校、バイト、たまに自炊。そんな生活に、特別なことは何もない。

…...今日までは、そう思ってた。



コンビニを出て、袋をぶら下げたまま歩く。

細い路地を抜けようとして、ふと立ち止まった。


――誰か、いる。


街灯の光が届かないところに、女の子が立っていた。

まっすぐに、俺の方を見ている気がした。

思わず目を逸らす。


髪が少し長くて、肩にかかってた。

顔はよく見えないけど、じっとしていて、なんか……怖い。


「……不審者?」


声には出さずに、そう思っただけ。

歩き出そうとした、そのときだった。


「ちょっと、いい?」


女の子の声が、後ろからかかった。

一瞬ビクッとした。

振り返ると、そこにいたさっきの子。


白い肌。細い手足。妙に整った顔。

……すごく綺麗、って思った。でも同時に、どこかおかしい。

目の奥に何もない感じがして、少しぞわっとした。


「美味しそうだね」


「……は?」


思考が止まった。

美味しそう……って、なに?

俺、コンビニ帰りのただの高校生だよ?怖すぎるだろ。


「えっと、すみません、俺、そーゆーの無理なんで! じゃ!」


反射的にくるっと背を向けて走り出そうとする。

でも……進まない。


え、なにこれ?


足は動いてる。けど、前に進んでない。

後ろを見たら、女の子が、俺の服を指でつまんでいた。


「え、ちょ、は!?」


「……あっ、ごめん。……」


彼女はそのまま手を離した。

ふわっと、身体が前に傾いて、バランスを崩しそうになる。


「今日は、我慢するつもりだったんだけどな……」


ぽつりと、独り言みたいにそう言って、

彼女はくるっと背を向けて歩き出した。


「……え? なに、あの人」


コンビニの袋を握り直す。

温めたパスタの熱が、まだ少し残ってる。


その夜、アパートの天井を見ながら、俺は何度も思った。


「なんだったんだ?」



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