宇宙人の価値観
「地球に来るのはもう7回目です。私は地球人が大好きです」
「それはうれしいな」
「地球人は優しいです」
「そうですか?」
「はい。私が好きだと言うとよろこんでくれます」
「それは普通のことでしょう?」
「そんなことないですよ。宇宙での常識ではありません」
「理解できないな。
宇宙人は他人から好きだと言われてもうれしくないんですか?」
「はい。うれしくありません」
「文化の違いかな」
「文化ですか。たしかにそうかもしれません。
我々の多くは広大な宇宙空間に散り散りに存在しています。
世界を織りなす構成要素の一つとしてより、個体としての意識が強いのかもしれません」
「うーん、むずかしい話ですね」
「そうですね。私も理解できているわけではありません。
質問をしますが、地球人はどうして他者から好きだと言われるとうれしいのですか?」
「それは、自分の価値を実感できるからじゃないですかね」
「それは理解できます。
需要と供給のバランスが価値を定める。
他者から好まれる物の方が価値が上がります。
それは宇宙でも適用される、一般的な法則です」
「だったら、我々の考えをくみ取れますね」
「いいえ。それでも優先順位というものがあります。
自身の価値を上げることがそこまで重要なのですか?」
「重要だと思いますけど……。
何よりも重要だと答える人間もそれなりにいるんじゃないかな」
「なるほど。やはり地球人は変わっています。
この惑星の中でもきわめて特別な種と言えるでしょう」
「地球でも特別、ということですか?」
「はい。地球上でも特殊な存在です。
だって、もしあなたが好きだと伝えてもーー」
とても大きな顔をした宇宙人は、おだやかな口調のまま続けた。
「牛、豚、鳥、魚は喜ばないでしょう?」