4話 記憶
もしかしたらゲームのやりすぎか、漫画かアニメの見過ぎなのかも知れない。特にゲームに至ってはこの手の世界観のRPGばかりやっている。
だから毎晩こんな夢を見るのだろう。
「俺がこの夢の世界の人間ってどう言う事ですか?」
さすがに「はいそうですか」とたやすく信じる事は出来なかったが、詳しい話を聞いてみたいと思った恵斗はベルナデットに質問をした。
「そりゃあ信じられないでしょうね。いきなり出て来た私に『あなたは夢の世界の人間です』って言われたって」
「…………」
夢から醒めたらゲームは封印した方がいいのかな。
けどそれでこの夢を見なくなったとしたら、それはそれで続きが気になるし…。
恵斗が脳内で色々と考えていると、ベルナデットが突然切り出して来た。
「すぐには信じられないと思うわ。けど、この質問を聞いたら私の話も少しは信じてもらえると思うんだけどどう?」
「…いいですよ。何ですか?」
どうせ夢の中の話だ。大した質問じゃないだろう。
恵斗はそう考えていたが、予想は大きく外れた。
「恵斗くん。あなた小さい頃の事は覚えてる?」
「え?」
ベルナデットの質問を聞いた恵斗は固まった。
「小さい頃って言うのは、今住んでいる子ども園に来るよりも前の事よ。どう?」
「………」
恵斗は黙り込んでしまった。
この質問に答えるとしたら2択。
「いいえ」もしくは「覚えていない」である。
上村恵斗、14歳。
今から10年前、4歳の時に上村子ども園に来た。
それより前の記憶が一切残っていないのだ。
本当の両親や家族、自分がどこで生まれたのかも何も分からない。
所謂「記憶喪失」だった。
なぜその事を…いや、自分が子ども園に住んでいる事までどうして彼女は知っているのか。
恵斗は息を飲んだ後に答えた。
「……覚えてないです。…けど、」
だからと言ってそんな事があり得るのだろうか?
自分が夢で見ている異世界の人間だなんて。
「知りたいでしょう。恵斗くんがなぜ日本にいるのか、小さい頃に何があったのか」
「……知りたい」
「なら、どうしたらいいか教えてあげる」
ベルナデットはにっこりと笑い、指でピースサインを作った。
「まず1つ目。あなたが子ども園に来た時の事を安曇先生に聞いてみる事」
恵斗はベルナデットからその名前が出て来るとは思っていなかった。
「安曇」とは、恵斗が住んでいる子ども園の園長の事である。
「安曇先生の事も知っているの?」
「もちろん」
恵斗は驚いてベルナデットを見つめた。
もしかしてこれは、本当にただの夢ではないのか?
「そしてもう1つ。あなたと同じ夢を見ている子が近くにいるの。その子を探しなさい。」
「………」
この夢を見ている人間が他にもいる。
今までそんな人物には夢の中ですら会った事はない。
けど。
「近くって…どこに?」
「そうね…ヒントはあまり言えないんだけど、『同じ中学校の同級生』よ。これ以上は秘密」
恵斗はこの時、ベルナデットの言っている事は全て本当なのかも知れないと思い始めていた。
当初より警戒が薄れた恵斗はもう1つ質問をした。
「俺と同じ夢を見ているって事は…そいつもまさか」
ベルナデットは頷きながら答えた。
「そう。その子もこっちの世界の人間よ」