3話 別の世界
「初めまして、上村恵斗くん」
目の前に立っている水色の髪の少女はなぜか恵斗の名前を知っていた。
夢に出て来る人に初めて話しかけられた事も、名前を知られていた事にも恵斗は驚いた。
「私はベルナデット・シュナイダーと言います。よろしくね、恵斗くん」
ベルナデットと名乗ったその少女は両手で握っていた恵斗の手を離し、自分の右手を差し出して来た。
「…よろしく」
恵斗は恐る恐るベルナデットの手を握り返した。
この夢の中の人たちは、今まで誰一人として恵斗の存在そのものに気が付かなかった。
しかしこのベルナデットは恵斗に気が付いている上に触れ合う事も出来る。
彼女は一体何者なんだ？
恵斗はベルナデットの事を警戒しながら見つめていた。
「どうして俺の名前を知っているんですか？」
「あなたが私…、いいえ、この世界に必要な人だから」
「俺が？」
恵斗は辺りを見渡す。
この日本ではないどこかの国に自分が必要だと言うのか？
と言うか今、この人『この世界』って言ったな…。
「…あの、『この世界』ってどう言う意味ですか」
恵斗は訝しげな表情を浮かべてベルナデットに聞いた。
「簡単には信じられないと思うけど…まずここは、『デザン大陸』って言う大きな大陸なの。今恵斗くんがいる場所とは別の次元に存在する世界よ」
『デザン大陸』。初めて聞いた名前だった。
世界史の教科書や資料集を読み漁ったところで見つかるはずがない。
別の次元、と言う事は即ち。
「異世界ってやつ？」
恵斗の答えにベルナデットは嬉しそうに頷いた。
「そう言う事。飲み込みが早いわね」
「これはただの夢じゃないの？」
「今は夢よ。…けど、いずれ現実になる」
「………」
夢が現実になる。そんな話が本当にあるのか？
ベルナデットをいくら見ても分からない。
その上でベルナデットは不安要素を更に上乗せするような情報を落として来た。
「そしてね、恵斗くん。あなたは今いる世界じゃなくて、こっちの世界の人なの」
「え？」
今彼女はなんて言ったんだ？
恵斗は思わず聞き返した。
「俺が何？」
「だから、あなたは私と同じ世界の人間なの」
「………」
恵斗はしばらく黙り込んで頭の中で考えた。
俺が日本ではなく、この世界の人間…。
この夢の中の世界の人間？
段々とベルナデットの言葉が理解出来た恵斗は、思わず本音の声を上げた。
「はああああ！？」
