匿名に送る
「不思議な体験と仰るのですか、それではこんな話はいかがでしょう」
ある時、男が狂気に陥ったか、はたまた、いい歳であるというのに厨二病になったか、1人で薄汚い暗い暗い地獄の底でこんなふうに話し始めた。何故私が知っているか?いや今はそんな話どうでもいいでしょう。まぁ本当に体験したのか、男の作り話なのか、会ったことも無いので私には分かりませんが、異様に不気味で恐ろしい話なのです。その話というのは、、、、、、、、、、、、
私は、とある街を歩いておりました。ですが、何故歩いていたのか思い出せないのです。目的は確かにあった、、、はずなのですけれどもさっぱり思い出せませんでした。
「ここは、、、どこだ?!」
なんてありふれた台詞を言ってみても何も変わんない。ほっぺたをつねってみる、、、痛い。突っ立っていても仕方ながないので歩いてみますが、様子がおかしい、、、歩いても歩いても同じ場所に戻ってくるのです。はて、私は方向音痴ではございますが、こんなにも同じところに来るのはおかしい。逃げ出したい気持ちに駆られますが走っても結果は変わらず途方に暮れておりました。そうこうしていると、そこへ1人の女性がやって来た、、、いや来てしまったと言った方がよろしいのでしょうか。背丈は160センチ程で髪型はロング。体は普通の女性なのですが、
問題は顔なのです。目であろう場所は黒い窪みとなっており、見ていると吸い込まれてしまうような感覚に襲われるのです。逃げなければ、逃げなければ!早く!遠くへ!そう強く思う程に足がすくんでしまうのです。次の瞬間には尻もちをつき目の前には黒い窪みそしてそれは、まるで笑っているかの様に一際黒々と開いていた。そこからの事はまるっきり覚えておりません。気がつけばここにおりました。そう、ここは薄汚い暗い暗い地獄の底、、、
以上が私の聞いた話の内容だ、そして私は今鏡の前に立っております。目の前には黒い窪みがある。これは自分が現実を受け入れる為に物語調に語ってみたのですが、この中で話した事柄を、余人が体験しない事を願う。私はこの世が擁する恐ろしいものを全て経験してしまったから、春の温かさも、夏の花も、この先私にとっては心地の悪い物とならざるを得ない。とはいえ、人間としての私はもう長くないと思っている。姿があの忌々しい女性と全く同じとなり、地下室に閉じ込められ気が狂って居るから、私は逝くだろう。私は運が悪かった、あの怪物を野放しにしておく事に加え、私すらも怪物となったのである。せめて、私の様な人物が現れないように祈るばかりである。