第二話
(状況を整理しよう)
マリーと名乗った女性は、一旦泣き止んだのを見たのか、おしめを取り替えるため、再度ベットへ寝かせる。
(自分の部屋でゲーム配信していて、お気に入りのゲーム「Arbiter Vitium」の全エンド回収耐久をしていた。)
「あらあら〜思ったよりびしょびしょですね〜」
(耐久を終えた俺は、配信を切ってゲームを閉じたが、ゲームからさらなる高難易度に挑戦するかどうかを問われた。)
「ちょっと失礼しますね〜」
(聞いたこともない状況に我慢しきれず、その場で挑戦を承諾して、今に至る…)
マリーは赤ん坊のおしめに手をかけようとする。
(もしかして夢か!?初めから高難易度なんてなくて、絶賛ベットですやすや夢の中だったりする!?)
「あら〜?どうしたんですか〜?恥ずかしくないですからね〜」
(恥ずかしいわっ!状況整理して、気を紛らわそうと思ってたけど…
現実で下半身を女性に見られることなんて、初めてだわ!)
「すぐ終わりますからね〜」
恥ずかしく、顔を横に背けながらされるがままにおしめを取り替えてもらう。
(ひとまず!これは夢の中だろう。頬をつねって目を覚ますでもいいけど、手がうまいこと動かせないし、覚めるまでゆっくり体験させてもらおう。)
ーーーー数年後ーーーー
「夢じゃなかったーーーーー!!」
(あまりの居心地の良さにまったりしすぎた!!)
「興味本位で、父上の書斎に入って、なんとか自分のことはわかったけど。。。」
「夢が覚めることもなく、頬をつねってほ。」
言いながら自分の頬をつねる。
「いってー…何度やっても痛いまま。
どうやら、夢ではなく現実みたいだ…」
屋敷の廊下をぶつぶつ呟きながら歩いていると。
「廊下で何やってるのよ…」
頬をさすりながら振り向くと、そこには
銀髪に灼眼、髪を肩にかかるぐらいの少女が立っていた。
「なんだ、アリスか。」
「なんだとは失礼ね!
それより、書斎から出てくるなんて珍しい…ライアン公と話していたの?」
「あー…いや。こっちのことだから気にしないで。」
(自分のことを調べてたなんて言えないしな。)
「…悩み事があるなら相談に乗るわよ。」
「んー…今は…大丈夫!」
そう返しつつ笑顔でアリスと別れる。
「……許嫁なんだから、ちょっとは頼りなさいよ。」
アリスは何か不安そうな顔をして、つぶやいていたが、まずは自分のことからだ。
(状況から察するに、俺は「Arbiter Vitium」のゲーム内の世界にいる。ゲーム世界の大陸名と今いるところが一致しているから、間違いない。)
部屋にあるふかふかの椅子に腰を下ろし、机の引き出しの鍵を開け、一冊の本を広げる。
(場所は△△。確かゲーム内では、一度も訪れなかった街だったはず。)
本の中身は直筆で、今いるであろうゲーム内の設定やストーリーを書き出していた。
(もっと情報がいるな。ゲームならクリア条件があるはず。まだ、俺が何をすればいいか目的がわからない。)
座っている椅子に全体重を預け、これからのことを考える。
(ネットもテレビもラジオさえない世界で情報収集ってどうすりゃあいいんだ?)
「ん〜、やっぱりゲームだから街への聞き込みかな?」
窓から外を見つめ、まだ太陽が高いことを確認する。
「まだお昼。。。
街に出て、情報収集してみるか。」
見つめている窓を開け放ち、スルスルと自分の部屋から外へと出ていく。
ーーーーーーーー
敵国との国境の近くの街、ライアン
敵国との戦争が長く続いているこの世界では、
敵国との戦いになったら、この街から物資を送ったり、兵士たちの休憩場所になったりする。
そのせいか、酒場だったり、娼館が多い。
「まぁ、その分情報集めはしやすいと思うんだけどっ。」
と、酒場の扉を開ける。
扉を開けるとそこに客はおらず、従業員が開店の準備をしていた。
(酒場だもんな、昼から人はいないか・・・)
「あら?」
一人の従業員が作業を中断し、近寄って、話しかけてくれる。
「坊ちゃん!久しぶりですね。今日はどう言ったご用件で?」
「ちょっと、王都の情勢とか知りたくて…
最近兵士の出入りってありましたか?」
「うふふ。坊ちゃんもついに政のお勉強を?
でもそれなら、ここじゃなくてお屋敷の方でお勉強できるのでは?」
「僕が知りたいのは、今の情勢なんです。
屋敷の勉強は今じゃなくて、過去のことばかりだから、、、
この街で最新の情報を手に入れたかったら、ここが1番ですよね?」
「確かにそうかもしれないですね。。。
最近来た兵士さんの話ですと、王都の方で税が上がって、払えない人が犯罪を…」
従業員の最後の言葉を聞き終わる前に、後ろから急に
首に腕を回され、目の端に銀色に輝くものが見えた。
「ちっと手ぇ止めなぁ!」
頭の上から怒鳴り声が響く。
「店の売上全部出しなぁ!さもないとこいつの命はねぇぞ!」
そう言いながら、首元にナイフを突き立てる怒鳴り声の主。
「ひっ……!」
首筋にひやりと無機質なものが当てられる感触に思わず悲鳴を上げてしまう。
「……」
怯える従業員。その場の空気が凍ったように静かになる。
「何やってんだ!早くしろ!このガキの命が惜しくねぇのか!?」
その言葉を聞き、慌てて売り上げをかき集める従業員たち。
「そうだ、キビキビ動け!オーナーの息子の命がかかってるんだからな!」
(こいつ俺をオーナーの息子と勘違いしてるのか!?)
金を1箇所に集め終わると、あまりの大金にウッキウキになる強盗犯。
さっきまで話していた従業員に袋を投げる。
「この袋にそれを詰めな!」
せっせと詰め始める従業員。
「へへへ、こんな簡単に金が手に入るとはな。」
パンパンに詰め込んだ袋を従業員から奪おうと手を離した瞬間。
「ぐあっ!」
ちょうど、手を離したすきに、強盗犯が横に吹っ飛んでいった。
開店前のテーブルや椅子なども強盗犯と一緒に壊れながら吹っ飛んでいった。
それと同時に近くにいた自分と従業員は腰を抜かしてしまう。
「サーシャ!よくやったわ!そのまま取り押さえて!」
アリスの付き人が強盗犯を動けないように押さえつけていた。
(アリス!?なんでここに!?)
アリスが駆け寄ってきて、抱き着いてくる。
ハッとしたように体を離し、体を確認される。
「大丈夫?どこかケガはない?」
いつもの冷静なアリスが嘘のように慌てている。
「だ、大丈夫。ケガはないよ。」
「そう。よかった…」
立ち上がるとそこにはいつもの凛としたアリスが立っていた。
従業員の方を向き、
「いろいろ壊してしまってごめんなさい。これを修繕費に充てて下さい。」
といいながら、金貨を従業員に渡すアリス。
「こちらこそ助けていただいてありがとうございます。」
受け取った従業員は腰を抜かしながらも深々とお辞儀をしていた。
「さぁ、帰るわよ。まったく護衛もつけないで勝手に街にでて、事件に巻き込まれてるんだから…
帰ったらお説教だからね!」
(事件に巻き込まれて、何の情報も得られず連れ戻されて、説教なんて……)
(なんて運がない日だ!)
そう叫びたいのを抑えつつ、トボトボと帰路に着くのであった。
ーーーーーーー
「全く。。。お前というやつは、もっと領主の子としての自覚を持てとあれほど言っているだろうが、今回は無傷だったからいいものの。」
もうかれこれ体感数時間ぐらいのお説教が続いていた。
アリスはうんうんと隣で頷いていた。
「もし、アリスの助けがなかったら今頃どうなっていたことか。」
「いえいえ、私は当然の判断を下したまでです。
実際に犯人を拘束したのもサーシャですし。」
「サーシャ、私からもお礼を述べよう。ありがとう。」
「恐縮です。ライアン公。」
(従者にもしっかりとお礼を言える領主。
なんとも俺が知っている貴族とは別のもののようだ…
それとも父上が異例で、他の貴族はもっと偉そうなのか?)
話題が変わったことをいいことに、自分の父、
グレイス=ライアンについて考えていた。
「聞いているのかリバル!!」
話が戻っていることに気づかず、父上に怒られてしまう。
「次期領主の自覚をつけるためにお前には、しばらく私の仕事に付き添ってもらうぞ!」
「いやちょっとそれは……」
(自由に行動できないと、今のシナリオがどのあたりなのか調べられない。)
「問答無用だ!ちょっとは領民のために働きなさい。」
(……いや、待てよ。父上の仕事に付き添えば、俺が調べなくても、簡単に情報が入ってくるんじゃないか??)
「はい!わかりました!お手伝いさせていただきます!」
「なんだ?急に素直になって。やる気が出たのは良いことだ。
今日は解散だ。明日から街の見回りに行くから、早めに寝なさい。」
「ライアン公!私も一緒について行ってはダメでしょうか?」
「おお!アリスも興味があるのか!?是非、将来のために役立ててくれたまえ。」
「ありがとうございます!」
(????)
アリスが嬉しそうに返答をしているのに対し、
何故アリスの将来に役立つのかわからず、疑問に持ちつつ、その日のお説教は終わったのであった。