第十二話
ブォーーー
出撃の合図のホルンが戦場に響き渡る。
砦の扉が開き、出撃する兵士たちが続々と砦から出てくる。
そこには、リバル、アリス、サーシャがいた。
扉が開くとそこには、悲惨な戦場が広がっていた。
まだ距離があるが、かなりの数の魔族が横に広がり、その後ろには魔法が展開されている。
さらには、その後ろで超々巨大な魔法が展開されていた。
前衛で戦っている兵士と砦の間には、敵の魔法の餌食になった負傷兵が数えきれないほど倒れている。
「私の配置はここね。先に、負傷兵を下がらせないと……」
ピィーーーーーー
アリスは自分の部隊に指示を出す笛を吹く。
敵に近い場所に倒れている負傷兵はアリスの風魔法で
敵との距離が少しある負傷兵は、衛生兵が担ぎつつ、安全な場所へと移動させる。
(アリス、がんばれ!)
横目でアリスの活躍を見守りながら、リバルは敵に向かって前進する。
国王軍の前衛は何とか魔法を止めようと敵前衛を崩そうとするがうまく押し込むことができずにいた。
魔族側は統率が取れているようで、前衛が一部崩れていてもそこに飛び込んでくることもなく、じりじりと前進してくる。
前衛の指揮を執るため、馬に乗っているサーシャがリバルの横につく。
「リバル様、私の後に乗ってください。敵の前衛を突破します。」
サーシャが乗っている馬の後ろに乗るリバル。
「出ます。姿勢を低くしていてください。いくよ、ローザ」
リバルとローザと呼ばれた軍馬に声をかけ、魔族側の前衛に突撃していくサーシャ。
サーシャの炎魔法により、さらに加速がつき、騎乗用の槍を前方に構え魔族の前衛を貫いていく。
前衛の魔族を抜けたところで、リバルは軍馬から降り、単独魔法部隊への攻撃を始める。
巨大魔法を唱えている魔法部隊を次々と数々の魔法で無力化していく。
しかし、単独での撃退だったため、いくつかは巨大魔法の発動を許してしまう。
魔法部隊は周りに魔族の味方がいるにもかかわらず、巨大魔法を放ってくる。
リバルは自身に放たれた巨大魔法を瞬時に読み解く。
両手に持っている双剣にそれぞれ別の魔法をまとわせ、
相反する魔力による無効化や反射を使い、次々と魔法部隊を無効化していく。
時に巨大魔法の時間稼ぎに小さい魔法がリバルに向けられ放たれるが、
グレイスからもらった魔法障壁により、弱い魔法はリバルに届くことはなかった。
余裕で構えていた魔法部隊も前衛が崩れ魔法部隊からも被害が出始めたことで、混乱が生じてきていた。
しばらく同じような戦闘が続くが、自身に向けられる巨大魔法の頻度が減っていることに気づくリバル
「リバル様、先ほど新しい情報が入りました。」
どこからともなくマリーが隣から話しかけてきた。
「現在、魔法部隊のさらなる後方で、砦を破壊するための超々巨大魔法を展開中とのこと。」
魔法部隊への攻撃をリバルと一緒に対応しながらも状況を説明するマリー。
「リバル様には早急にその超々巨大魔法の妨害を、可能なら壊滅をお願いしたいです。
そこへの道は私が作ります。」
そういいつつ、超々巨大魔法への道に何か球体のような物体を投げるマリー。
しばらくすると投げた箇所から様々な種類の魔力爆発が起こる。
魔法部隊から最後方への道が一瞬開かれる。
「リバル様!!」
「ああ!ありがとう!」
マリーに一言礼を言い、魔法を使いながら、最後方への道を駆け抜ける。
マリーからの一瞬作られた道を抜けると
魔法部隊の千人ほど人数が超々巨大魔法に魔力を送っていた。
リバルが魔法の完成を少しでも遅らせるため、次々と無力化していくが、
リバルの攻撃力では少しずつしか対応できず、目に見えての成果は現れなかった。
完成間近の超々巨大魔法を目の前に焦り、戦っているリバル。
(だめだ…こんなちまちました攻撃だと、魔法が完成しちまう…
何か…何か手はないのか?)
戦闘しながらも、このままだと、超々巨大魔法の発動を遅らせることも止めることもできないと焦るリバル。
(貫通力があって膨大な被害が見込める攻撃力が高い魔法…)
「!?」
ふと、自分が対峙した巨大な光魔法が思い浮かんだ。
巨大な光魔法を展開するために魔法部隊から距離をとるリバル。
「はああああああ!」
握っている双剣に光魔法をまとわせ、それを合成増強する。
勇者の魔法を再現した巨大光魔法を超々巨大魔法を展開している魔族軍に向けて放つ。
リバルの放った巨大光魔法は、床を削りながら魔法部隊を蹴散らしていく。
展開をしていた超々巨大魔法をも一部破壊し、集めていた魔力が大爆発。
超々巨大魔法も止められ、撤退していく魔族軍。
「ライアンンンンンンンンンンンンン」
ライナスが剣を振り上げリバルに突撃してくる。
目的を達成したリバルは、一瞬気を抜いてしまった。
ザシュッ!
我に返ったリバルの目の前には、ライナスの剣で切られている聖女の姿があった。
「聖女様!!」
倒れてくる聖女を抱え、傷口にすぐ回復魔法を当てるリバル。
「な、なんで、、、、」
突然自分が聖女を斬ってしまったことが理解できず、ふらふらと後ろに下がるライナス。
「よ…かった……リバル様を…脅威…から…助け…られました…」
震えている手を治療してくれているリバルの頬に触れる。
「しゃべらないでください!今、助けを呼びます!」
片手で回復魔法を展開しながら、もう片方の手で、空にマリーへ緊急事態を知らせる魔法を放つ。
「違う…僕が斬ったんじゃない……突然聖女様が現れて…それで……」
ライナスは聖女を斬ったことに動揺しぶつぶつと呟き、動きを止めている。
リバルはライナスを警戒しつつも聖女に回復魔法を続けている。
「リバル様!大丈夫ですか!?」
「マリー!聖女様を安全な場所へ!」
なぜ聖女様がここにいるのかと戸惑いながらもリバルの指示に従って、聖女を抱えるマリー。
去り際、ぶつぶつつぶやいているライナスを見てリバルに伝えるマリー。
「リバル様、気を付けてください。あの方が勇者です。」
巨大光魔法での領地への被害、物資輸送での妨害、それに先ほどの聖女への危害、
これまでの勇者から被った被害を思い出し、勇者をにらみつけるリバル。
「わかった。ひとまず聖女様を安全なところへ。」
うなずき、この場から離れるマリーと聖女。
勇者の強力な魔法を知っているリバルは、警戒しつつ勇者と対面する。
「そもそも、なんで聖女様がこんな戦場に?まさか!!」
ぶつぶつとつぶやきながら剣を振り上げ、リバルに攻撃してくるライナス。
「お前が!お前が聖女様を盾として使ったんだな!!」
双剣を使い、その攻撃を受け止めるリバル。
「そんなわけないだろ!」
「嘘だ!ならなんで聖女様がお前をかばうんだ!僕が聖女様を斬ってしまったのは、お前たちが、自分の身を守るために聖女様を盾に使ったからなんだろ?
僕が守らないといけない聖女様を僕が傷つけてしまうなんて、きっとお前らライアン領の奴らが邪魔してきたからだ!」
言葉を発しつつも双方剣を交えながら戦っている。
「絶対にそうだ!お前が悪いんだ!聖女様を攫ったお前が!」
「哀れだな…」
リバルの言葉に剣を止めるライナス。
「なんだって……?」
少し距離をとって問うライナス。
「哀れだって言ったんだ。
自分が守りたかった人を自分で傷つけて、理由は人のせいって。哀れ以外のなんていうんだ?」
「うるさい!!お前たちが聖女様を盾に使ったのが悪いんだろ?お前たちのせいで間違っていないじゃないか!?」
「こっちの言葉に耳を傾けず、自分の都合が悪いことは否定して、見たいものしか見ない。」
「違う!僕は間違ってない!みんなそうだった!僕のやることはみんな正しいって!」
魔法で光の雨をリバルに向けて照射するライナス。
リバルは闇魔法と水魔法それぞれ双剣にまとわせ、合成、魔法を吸収する霧を前方に展開、一つ一つはそこまで威力がない光魔法は、威力を弱め、リバルが持っている魔法障壁で相殺されてる。
「そのみんなって誰なんだよ!お前が放った魔法に巻き込まれた人たちは?
それで死んだ人たちも正しいって答えるのかよ!」
「僕が正しいんだから、それに反対している奴は悪だろ!
そんな奴のいうことなんて間違いに決まってる!」
手をリバルの方に向け、巨大な光魔法を展開していくライナス。
「それでもお前が聖女様を傷つけてしまった真実は変わらないぞ!
それが飲み込めないようじゃ、お前に大切な人を守ることなんてできない!」
光魔法の展開を妨害するため、槍の形をした炎魔法を放つ。
「うるさい!僕は悪くない!」
そう叫びながら、巨大な光魔法を放つライナス。
放った炎魔法を飲み込み、リバルの方に向かってくる巨大な光魔法。
リバルの後ろにはいまだ戦っている仲間たちと、北の砦があった。
(俺がよけたら、みんなが…)
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ」
構えている双剣に闇魔法を全力で注ぎ、光魔法の軌道を変えようとするリバル。
巨大光魔法を受け止めるリバル。
ずるずると後退していくリバル。
最大出力で闇魔法を双剣にまとわせ、その双剣がさらに魔力を高める。
「はああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
リバルの掛け声とともに勇者の魔法を徐々に抑えはじめていた。
拮抗していた魔法は、一瞬にして決着がついた。
リバルが双剣を振りぬき、光魔法を切り裂いた。
双剣から放たれた斬撃が光魔法を放ったライナスに向かう。
ライナスは、光魔法を放った直後で防御すらできず、両腕を切断された。
「が、ああああああ、う、腕がああああああ」
膝をつき、痛みで叫ぶライナス。
「いたい、いたいいたいいたいいたい!なんで僕が!僕は…悪くないのに…」
あまりの痛みとショックで気絶してしまうライナス。
このままだと出血多量で命を落とすほどにやられていた。
「死んで終わり、なんてさせねぇ……」
先の戦闘でボロボロで剣を杖替わりにしながらもライナスの方へ歩いてきたリバル。
ライナスの両腕からの出血を水魔法で止血し始める。
「「「リバル(様)!!」」」
後ろから、戦闘が終わった仲間たちが駆けつける声が聞こえた。
それを聞き、限界だったリバルも意識を手放すのであった。
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王城
「北の砦の戦争をよく収めてくれた。」
王室の前で王に頭を下げているグレイス、リバル、アリス。
「特にリバルとやら、貴公の活躍、余の耳にも届いておるぞ。」
「ありがとうございます。」
「それに比べ…」
ちらっとグレイスたちの横に警備にとらえられているライナスに目を向ける王。
ライナスは、「僕は悪くない。僕は間違っていない」とずっとぶつぶつと呟き、
体にはちからが入らないのか、ぐったりとしながら、警備に支えられていた。
「勇者の称号を与えたものが、物資輸送の妨害に、味方戦力との戦闘、
ましてや、教会の聖女に危害を加えるなど…
幾度も我が国に損益をもたらすものである。法に従い、処罰を受けてもらう。
連れていけ。」
王室からずるずると連れていかれるライナス。
「して、リバルよ。今回のライアン領の活躍に褒章を授けようと思うのだが、希望はあるか?」
リバルはこれまでの勇者の攻撃で家を失った国民や遺族への支援を希望。
それを王が了承し、王室を後にしたリバルたち一行。
「んんんんんぅー」
長時間の王室での会話で固まった体のコリを伸びでほぐすリバル。
「リバル様!先の戦争ではありがとうございました。リバル様の治療がなければ、私は…」
お見送りに来てくれた聖女からリバルに感謝の言葉が送られた。
「私の方こそ、ありがとうございました。
聖女様がかばってくれなければ、私の方がやられていましたから…」
「リバル!そろそろ行くわよ!」
ちょっと気まずい空気が流れたところで、アリスが声をかけてくれた。
馬車に向おうとするリバル。
「傷が治ったら、またライアン領へ伺いますね!
またお世話になると思うので、その時はよろしくお願いします!」
「ははは、まだ結婚の件はあきらめていないんですね。」
「もちろん!これは教会の命ではなく、私の気持ちなので!」
「まぁ、その話はまた後日に。今は傷を治すことに集中してくださいね。」
そう声をかけ、馬車に乗り込むリバル。
「さぁ、ライアン領に帰りましょうか!」
その言葉を皮切りに、リバルたちは自分たちの領へと戻っていくのであった。