第十話
「だから、この村に魔族なんているわけないじゃないですか。」
村人からの何度も同じことを聞き、イライラを募らせるライナス。
「お前たちがなぜ魔族を匿っているのかわからない。
教会から、ここに魔族が潜んでいることが報告されている。
必ずここに魔族がいるはずだ。」
「ねぇ、こんなに村の人達が否定しているんだし、ここにいる魔族もどこかに逃げちゃったんじゃない?」
ライナスと村人とのやり取りに割って入る格闘家の女性。
「いや、そんなはずは……まさか!
すでに魔族に洗脳されている……!?」
ぶつくさと小声でつぶやくライナス。
「何人この村に魔族が潜んでいるかわからないと聞いているし、
もしかしたら、村全員が……こうなったら!」
つぶやきが終わると、ライナスは光魔法のために入る。
「「「!?」」」
村の入り口に集まっていた村人と、ライナスのパーティメンバーが突然のライナスの行動に驚く。
「ちょ、ライナス!あんた何やってんの!?」
「この村全員が魔族みたいだ。このまま放っておいたら、北の砦が危ない!」
突然の巨大魔法に蜘蛛の子を散らすように、ちりぢりに逃げていく村人。
「何言ってんの!収集つかなくなってんじゃん!早く魔法止めなさいよ!!」
格闘家の女性が止めようと声をかけるが、ライナスは静止を聞かず、準備ができた魔法を村に向かって放つ。
光に村が包まれ、光がとおったところには村の瓦礫のみが残り、すべてが消え去っていった。
「な、なんてことを…」
村があったところを見ながら、足から崩れ込む格闘家の女性。
「はぁ、やはり、こうなったか。」
後ろから遅れて村に到着した、斧を持った男性が現れた。
ライナスは、範囲外に逃れた魔族がいないかを調べに村だったところに足を踏み入れた。
「やはりって、どういうこと?」
「我らが勇者様は細かいことは考えたくはないらしい。
細かいことが起こると、全員が悪いと結論付けて、関わっているすべてを始末しようとする悪癖がある。まるで子供だ…」
「なに、それ…」
「前もこれで街が一つ地図から消えた。お前も慣れておいた方が良い。」
「そ、そんな……」
格闘家の女性は絶望な表情を村の中を移動するライナスに向けていた。
「散り散りになってしまった魔族の打ち漏らしはなかったよな…?」
ガサガサッ
離れたところの森周辺から、草をかき分ける音が鳴る。
「魔族か!?」
音が鳴っていた方向へ走っていくライナス。
到着したときにライナスが見た光景は、
気絶した聖女を抱え、両脇に剣を下げた若い男性の姿が見える。
剣の柄の部分に、見覚えがある家紋が描かれていた。
「待て!聖女様をどこへ連れていくつもりだ!」
聖女を攫った男性を止めようと、ライナスも森の中に入っていくが、
すでに男性の姿はなかった。
「剣にあったあの家紋……ライアン領の家紋だった……
グレイス…聖女を攫うなんて、何を考えているんだ……」
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後ろから何か叫び声が聞こえてきたリバルは、足を止めてしまいそうになった。
「リバル!後ろは良いから急ぐぞ!」
そうグレイスの言葉を聞き、足を止めずに急ぎ物資の馬車がいるところに向かう。
聖女は気を失っているが、うわごとのように、ごめんなさい、ごめんなさいと呟いていた。
馬車まで到着すると、自分たちの馬車に聖女を寝かせ、
グレイスは早急に出発の準備を指示。
準備を整え、森を抜けるために馬車を出発させた。
「急に村から撤退って、父上は何を見たのですか?」
砦に向けて出発し、森を抜けて一息ついたところで、リバルが問う。
「あの忌々しい光魔法、みんなも覚えはあると思う。
勇者があの村に来ていた。」
「「勇者!?」」
「なぜ、勇者が村を崩壊させたのでしょうか?」
ふと疑問を口にするリバル。
「今の勇者は強力な力を持った子供のような人間だ。
なんでも力で解決しようとする。おそらく、魔族を探し出そうとしたが、失敗して、潜んでいる村ごと消滅させてしまえば、魔族も一緒に消せるだろうと考えたのだろう……」
「「………」」
何とも言えない勇者の話を聞き、沈黙が流れる車内。
そこに気絶していた聖女が目を覚ます。
「こ、ここは……?それより、アンは?
あれからアンはどうなったのですか!?」
「アンさんは、あの光の中に……」
「そ、そんな……」
アンからもらったハンカチを握りしめ後悔している聖女。
「私が、もっと早くアンを信じて上げられれば、こんなことには……
ごめんなさい…ごめんなさい…」
ハンカチを握りしめ、泣き出してしまう聖女。
馬車は丘を抜け、ついに東の砦が見えてくる。
「私は…これからどうしたら…やっぱり、教会の言うとおりに…」
「聖女様!また目をそらすんですか?」
「リバル様…」
「そうやって、目をそらしてまた大切な人を失って、
あなたは何のために聖女になったんですか?」
「何のために……」
「教会に言われたから聖女になったのですか?」
「……いいえ、私は……私は、大切な人や子供たちの笑顔、ひいてはこの国の人たちを守りたくて聖女になったんです!
決して、教会の言いなりになるために聖女になったわけではありません!」
自分が何のために聖女になったのかを思い出した聖女。
つきものがとれたような表情に後ろから後光がさしているようにさえ感じるリバル。
ドンッ!
轟音とともに振動が馬車内に響く。
後光かと思われた光は空からの光魔法だと気づく一行。
「マリー!北の砦へ全速で向かってくれ!」
丘の上から、大量の光魔法が降り注いでいた。
リバルは馬車の扉を開く。
「聖女様は、そのまま馬車で北の砦へ!運んできたけが人を治療してください!」
「アリス!けが人を運んでくれ!僕は、光魔法を防ぐ!」
「わかったわ!サーシャ、援護お願い!」
「承知!」
それぞれ馬車から飛び出そうとするところにグレイスが声をかける。
「みんな!これを!」
小型の装置を投げて渡すグレイス。
「胸につけてボタンを押せば起動する!
試作型だが、このぐらいの攻撃なら防いでくれるはずだ!」
グレイスから受け取った装置を胸につけ、それぞれ馬車から飛び降りる三人。
アリスは細剣、サーシャは槍、リバルは双剣を構え、光魔法にさらされている物資の馬車に向かう。
広範囲に多数の光魔法を放っている丘の上の人物は、日の光にさらされ顔までは見えなかった。
光魔法が無数に照射されているが、グレイスからもらった、小型魔法障壁により、移動に集中でき、次々と御者や護衛を助けていく。
降り注ぐ光魔法を次々と闇魔法で地面に反発させるリバル。
けが人たちを風魔法により浮かせ、移動させつつ動ける人たちに避難誘導を行うアリス。
馬車の下敷きになってしまった人たちを助けながら、アリスの補佐をするサーシャ。
それぞれの活躍により、何人かの御者、護衛を助けていく。
攻撃を放っている丘の人物は、後から来た人物が殴り掛かったことにより、攻撃の手を止めていた。
攻撃の手が止まったと同時に救助に加わるリバル。
北の砦の街では、聖女が水魔法により、けが人の治療を行っていた。
「リバル様!すみません。私だけでは手が足りません。手伝っていただけますか?」
「はい!」
街の医者を呼びに行ったグレイスとマリー、何事かと確認しに来た北の砦の領主が駆けつけ、
軽傷の人は、街の医者に診てもらい、聖女とリバルが治療した重傷者はアリスの風魔法やサーシャによって街の病院へ運び、一息をつくのであった。