第一話
小さい部屋の中でパソコンに向かって一人で話している一人の青年。
二つあるパソコンの画面の片方には、複数の手に剣や盾などの武器を持った怪物が隙間なく攻撃している。
その攻撃をギリギリのところで回避している勇者の格好をした人間。
「くー、しぶとい。」
パソコンに繋がったコントローラーを握りしめ、操作をしながら、チラッともう一方の画面を見る。
そこには「頑張れー」などの声援から、「ここまで苦戦するとか雑魚すぎ」などのヤジなど、数は多くないもののいろんな反応が文字として表示されている。
ヤジの方に目がいきイラッとしながらもコントローラーを操作する青年。
「もうちょい。。。あと一撃。。。」
パソコンの画面では、操作するキャラクターが最後の攻撃を当てて、バトルが終了するところが映る。
「しゃああ、見たか!3ルートクリアプラスバットエンド回収耐久達成じゃあああ!」
誰もいない部屋に誰かに訴えるように叫ぶ青年。
文字が羅列する画面では、
賞賛や冗談混じりのヤジが流れている。
その一つが目に入り、声に出して読む青年。
「ん?完走した感想をどうぞ?」
「いやー。長かったし、むずかった。クリアしたことは何度もあったけど、全部のエンド集めるのにこんなに時間がかかるとは。。。
流石名作。ボリュームが普通のゲームとは大違いだ。。。
今はとにかくベットに誘われたいわ。」
そうパソコンに語りかけ、インターネットの向こう側にいる視聴者への反応を伺う。
ちょっと間を置き、「楽しかった」や「お疲れ様」、「また耐久配信お願いします。」など賞賛のコメントが流れる。
「おう。みんなも長時間の配信に付き合ってくれてありがとな!このエンディング見終わったと同時に配信も切るわ。ありがとう。」
パソコンに流れる反応に嬉々として答えながら、満足な表情を浮かべる青年。
ゲーム画面は美麗な映像を映しつつ、
流れるエンディングの音楽に耳を傾ける。
長い時間格闘していたゲームと向き合い、思わず泣き出してしまう。
「やっぱり、ストーリーいいよなぁ、泣ける。」
パソコンの画面に完の文字が大きく表示される。
「これにて、3ルートクリアプラスバットエンド回収耐久完走!ありがとうございましたー。また、配信でお会いしましょう!またな!」
配信終了のボタンを押す青年。
配信が終わることの労いや次の配信の期待などの勝手気ままに文字が流れる。
それにニコニコしながら青年は配信終了のボタンを押す。
「そう言えば、全エンド集めたけど、結局どのエンドでも、あの領主が救われることなかったな…憎めないやつで、嫌いじゃなかったんだけどな。。。」
と、ゲームのあるキャラクターを思い浮かべる。
「主人公が授与式て調子に乗って放った魔法で滅んだり、濡れ衣着せられて魔族領から攻められて滅んだり、どのルートでもあいつの街は散々な目に合ってたよな。。。」
先ほどやっていたゲームのあるキャラクターを思い浮かべ、感傷に浸っている青年。
「でも、あいつも父親が早々に死んじゃって、何もわからない中、自分で成果を出そうと頑張ってたんだよな。。。理不尽なエンドが多かったけど、、、」
ベットに寝転びながら、ゲームを振り返る。
普段はネットでの調べ物ぐらいしか使わない携帯電話から音が鳴る。
青年が携帯の画面を開くと
「最近大学はどう?」
「たまには家に帰ってきなさい。」
とメッセージアプリから母という名称で送られてきていた。
次いで、メールで「単位取得出席数不足のご連絡」というメールが届く。
それを寝転がりながら呆然と眺めている青年。
青年「学校か。。。結局。。。何したくて。。。今の大学に。。。入ったんだっけ。。。」
瞼が徐々に重くなってくる。
ふと、パソコンのゲーム画面が光を放っていることに気づく青年。
青年「あれ。。。?画面、消したよな?」
青年はベットから起き上がり、再びパソコンの前に戻る。
パソコンの画面の完の文字の上に選択ウインドウが表示されていた。
ーーーーーーーー
「さらなる高難易度に挑戦されますか?」
▶︎はい
いいえ
ーーーーーーーー
青年「なんだこれ?こんなのあったか?もしかして、何周もして出てくる新しい難易度?」
新しい発見に疲れも吹っ飛び目を輝かせる。
青年「配信でやりたいけど、ちょっと様子見だけ。。。」
デスクにつき、コントローラーを再び握りしめ、初めての体験に手を振るわせながら、ゲームの決定ボタンを押す。
突然ディスプレイが光り輝き、周りを包み込む。
青年の視界が真っ白に塗りつぶされていく。
ーーーーーーー
(な、なんだ?)
真っ白な世界から瞼をゆっくりと開ける。
そこにはいつもの天井より数段高く、円の中に天使が手を伸ばしている絵が描かれていた。
(どこだ?ここ?)
ふと、天使が手を伸ばしている手を掴もうとてをあげてみる。
(は?なんだこれ?)
自分の視界に入ってきた手は、20歳の青年の手ではなく、赤ん坊の手であった。
(どうなってんだよこれ!?)
自分が自分ではない体を動かしているような妙な感覚になり、状況を確認したく起きあがろうとする。
(な、なんで…起き上がれない。。。)
頭を上げようとしても、寝返りを打とうとしても、体が言うことを聞いてくれない。
(どうすりゃいいんだこれーーーー)
バタバタと暴れていると、頭の上あたりから、
ガチャっと扉を開ける音がした。
「はいはーい、どうしましたかー?」
目の前に金髪碧眼のメイドの格好をした女性が自分が寝ているベットに駆け寄ってきた。
「んー?ご飯の時間はまだですしー、起きて誰もいなくて寂しかったんですかねー?」
そう言いながら、体を軽々持ち上げられる。
(お、おおお?)
「はいはい、マリーはここにおりますよー。」
抱き抱えられ、落ち着かせるためか背中をポンポンとたたかれる。
抱き抱えられたおかげか視界が広がり、鏡に映った姿が見えた。
(赤ん坊??これ、俺???)
「はいはい、落ち着きましたかー?」
(知らない場所、知らない人に赤ん坊の自分。。。)
(て、転生ってやつ?何がどうなってんだこれーーーー)
そう叫びながら、なぜか下半身からちょろちょろとおしめが濡れていく感触が伝わってくる。
「あらあらー。すぐお取り返しますねー。」