6.ちらちら
委員が終わった後も美央から解放されることは相変わらず許されないことらしい。
委員長の「終わります」の声とともに、俺はさっさと出口に向かおうとしたのだが、美央もその行動を読んでいたみたいだった。
「かわいい妹をほっといて、どこに行くつもりなのかな? かな? 用事なんてないのわかってるんだから、一緒に帰るよね? 断るなんてことしないよね?」
確かに用事はないとはいえ、最近の美央の誘い方は脅迫に近いから困る。
そもそも断る以前に、既に腕をつかまれていた。こういう時の美央はとにかく力が強い。さっきの美央が委員会で放った発言および委員長がした反応のせいで、あたりの視線のなんと冷たいことか。
いい加減、俺に同調してくれる人がいないものだろうか。なんて、とても望めないようなことを考えてみる。むなしさだけしか残らないから嫌になった。
美央はその視線を気にもしていないのか、返事も聞かないまま、俺の手を引いて歩き出した。
「で、帰るんだよな?」
「うん、そうだよ?」
「じゃあなんで上り階段を使っているのかぜひ聞きたいところなんだが」
「さあ、どうしてかなー?」
ずいぶん意味ありげに美央が言うものだから、考え込んでしまった。何か行くような場所があっただろうか。
結局、まったく答えが出ないまま、校舎の最上階へやってきてしまった。しかし、美央はさらに続く上り階段に引き続き足をかけている。
「答えはお楽しみの屋上だよ? えへへ、何が起こるかなー? どきどき」
学校の屋上は立入禁止ではないが、放課後から委員会をする時間を経たこんな時間までわざわざ屋上にいる人などごくわずかだ。特に夕焼けが言うほどきれいとかいうわけでもなく、これといった特徴のない場所。美央がなぜそんな場所に引っ張り出そうとしているのか。想像がつかなかった。
「とうちゃーく! ドア開けるね?」
考えている間に屋上のドア前まで来てしまっていた。今思えば、こうして考え込ませられたことで抵抗なくここまで連れてこさせられたのかも知れない。
相変わらずの美央の策士っぷりに、もうなすすべがなかった。
「もう好きにしてくれ」
ここで引き返そうとしたって無駄なのだろう。美央もどうせ有無を言わさず実行するだろうし、意味なく時間のロスをする必要もない。
俺が適当に返事をすると、案の定聞いているのかいないのか、既にドアを開いていた。
暗い階段から解き放たれた光に目がくらむ。強い風で目が痛くなったのも手伝って、少しばかりの間、目を閉じてやり過ごし、再び目を開けた時だった。
遠くの方でフェンスに寄りかかっている、鴨紅さんの姿が目に入った。
それだけだったら、まだよかったんだろうけど。
ちょうど俺がくらった、目が痛くなるほど吹き荒れる強い風が困ったことを引き起こしてくれた。鴨紅さんのスカートを捕らえて、さもさらっていくかのように巻き上げていったのだった。
……不可抗力だとはっきり言っておくが、違った意味で光のように白く、目がくらみそうなものがちらちらしているのを見てしまった。
鴨紅さんもさすがに気づいたようで、慌てるように両手でスカートを押さえ、うつむいている。
周りを気にするよりも恥ずかしさが勝ったのか、下を見たまま動かないでいた。
さあ、どうするか。すぐ下を向いたということは、つまり鴨紅さんは、俺たちがいることに気づいていないわけだ。
……うん、俺は何も見ていない。今来たばかり。それで行こう。
そもそも気づいていないなら余計なことを言う必要自体がないのに、変に言い訳しつつ、鴨紅さんに声をかけようと一歩踏み出そうとした。
しかしそうやってごまかしてみたところで、真横から来る視線を無視し続けることもできず。
美央の方を向くと、口を大きく横に広げたような、それはもう、悪いことを考えてますよ的な笑顔を繰り出していた。
それは、嫌な予感どころの話ではなかった。