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ダブルアタック!  作者: MMR
1章 妹+α
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Event.1 逆チョコならぬ

イベント事がある時は、視点が変わることしばしば。

本編を外れて、ちょっと一息。

「あわわ、ついにこの日になっちゃいました……」

 

 私は、鴨紅るり。これといった特徴もない、普通の高校一年生です。

 そんな私だけど、気になる人がいます。

 私をいつも気にかけてくれる、同級生のみおちゃん。そのお兄さんが、頭から離れないんです。

 もともと男の人とお話することが少なくて、たまたまみおちゃんを通してよく会うから、意識してしまうのかもしれない、そう思っていました。

 みおちゃんにそれを話したら、お兄さんと会う機会が増えることになりました。

 朝にいきなりお兄さんのお部屋に入って起こしたり、一緒に登校したり……まさか最初からそんなことをするとは思ってもいなかったけれど、でもそれが嫌なわけではなくて、むしろ楽しいんです。

 もっと、気になる存在になりました。

 恋、なのかどうか、それはまだわからないですけど。

 

 三月十四日を指すカレンダーを見ながら、深呼吸して気持ちを落ち着けさせて。日付が変わるわけでもないのに、そんなに見つめていても仕方ないとは思うんですけど……でも、そうせずにはいられませんでした。

 二月十四日のバレンタインデーでも、もちろんお兄さんにチョコを渡しています。けど、あまりお菓子を作るのは得意ではなくて、納得はしていません。

 だから一ヶ月後の今日はリベンジの日。バレンタインの日に男の人から女の人に逆にチョコを渡すようなことがあるのなら、ホワイトデーの今日、女の人から男の人に何かを渡すのだってありのような気がします。

 

 リベンジと言っても、お菓子作りでは同じ結果になる気がします。だから、何かプレゼントをしようと思いました。

 だけど、何かあげるとしてもおこづかいの都合もあります……

 とにかく迷った結果、私がいつもカバンにつけているお気に入りキーホルダーの、色違いのものをあげることにしました。

 今日は休日なので、みおちゃんの家に向かいます。

 思いが通じたのでしょうか。途中で、お兄さんと会うことができました。

 

「あ、鴨紅さん。こっちは鴨紅さんの家とは反対だよな……美央になんか用?」

「お兄さん……あわわ、そ、その。お散歩です」

 

 でも、心の準備がまだでした。今日はお兄さんに用事があるだけなのに、お散歩と答えてしまいました。このままだと、渡す前から今回も失敗になってしまいます。

 

「そっか、今日は暖かいから絶好の散歩日和かもな」

「そ、そうですね……」

 

 もうお話は散歩のことになってしまいました。もう切り出せるチャンスは無さそうな気がします。

 私にも、もう少し踏み出せるような勇気が、みおちゃんくらいにあったら。でも、今考えても遅い気がします……

 

「と、ところでさ」

「はい、何ですか?」

「あ、いや……なんでも」

「え? ……は、はい……」

 

 すると突然、お兄さんのお話が止まってしまいました。私をあまり見てくれません。

 そして、私は気づきました。みおちゃんがいないのが初めてで、つまり二人だけでお話をしたのも初めてで……

 

「鴨紅さん、あのさ」

「あ、あわわ、その、ごめんなさい! 私、二人だけになってしまっていることに気づかなくて、お兄さんに気を遣わせてしまって……すみません、私、帰りますね! きゃ!」

 

 とにかく慌ててしまっていた私は、小石につまづいたのに、すぐに気づけませんでした。

 そのまま、お兄さんの胸に顔を押しつける形で飛び込んでしまいました。

 少しの間はどういうことかわからなくて、そのままでいてしまって、お兄さんの胸の中は包まれるように暖かくて、そして心臓の鼓動が少しずつ、私の鼓動と同期するように早くなっていくのがわかります。

 私の胸もお兄さんに押しつけているから、同じことを思っているでしょうか……

 

 すごく大胆なことをしてしまったのに気づいたのは、その後でした。

 

「鴨紅さん、大丈夫?」

「あ、あわわわわ! ごめんなさいっ!」

 

 なんだか、お兄さんと会う時はいつもこんな調子な気がします。そのたびに顔も見られなくなりそうなほど恥ずかしいですけど、今日は特に、二人だけしかいないので顔を反らすわけにもいきません。

 つまづいた拍子に投げてしまったカバンを、お兄さんは拾ってくれて、私に差し出してきます。

 

「はい、カバン」

「あ、ありがとうございます……」

 

 そうだ、お兄さんのカバンも私を受け止める時に投げ出されています。

 私が拾って……そうだ、これはチャンスなのかもしれません。スカートのポケットに入れておいたキーホルダー、この隙にお兄さんのカバンにつけて……

 

「あ、あの、お兄さんも……ごめんなさい」

「ありがとう」

 

 そして、その時気づきました。

 もともとカバンにつけていたキーホルダーに、さっきお兄さんのカバンにつけたはずのプレゼントのキーホルダーが増えていて、ペアになって二つ、踊っているのです。

 私はマジックみたいなその出来事に驚くしかありませんでした。

 

「あ、あの、キーホルダーが……」

「あ、気づいたんだ。一応、ホワイトデーだからプレゼントをと思って、今渡しに行こうとしてて。ちょうど良かったからつけさせてもらったんだけど……さすが鴨紅さん、すぐ気づくとは思わなかった」

「あの、というか……」

「ん? あ、あれ?」

 

 私が視線をお兄さんのカバンに向けると、お兄さんが驚いた顔をします。

 そうですよね……今つけたはずのキーホルダーが、自分のカバンについているのですから。

 

「私からの、プレゼントです……いつもお世話になっているから、と思って……でも、まさか、あの……」

「むー、同じキーホルダーつけるなんてラブラブなカップルみたいなことして……るりちゃん、抜けがけ」

「みおちゃん! あ、あわわ、カップルだなんて、そんなっ……!」

 

 プレゼントがおそろいになってしまって、どうしようと考えていて周りを気にしていませんでした……私の後ろからみおちゃんの声がした時は、危うくまたつまづいてお兄さんに飛び込むところでした。

 でも、飛び込めなくて残念だと思ってしまう私もいたりします。さっきの心地よく包まれる感覚、もっと感じていたいです……

 なんだか、はしたないことばかり考えてる気がします。

 

「カップルとか、鴨紅さんに失礼だろ」

「えー、今さらるりちゃんの視線に気づいていないフリ? ちょっと押しを強くするだけでも、すぐに体をゆだねてくると思うよ? ほら、こんな感じとか!」

 

 みおちゃんが私の後ろでピッタリ体を押しつけてきて、そして手だけが前に伸びてきて……

 

「きゃ! み、みおちゃんやめて……っ!」

「おおー、また大きくなって……誰のためなのかなー? ほれほれ」

「やっ、や、やめ……ってよぉ……」

 

 普段からみおちゃんはこういうことをしてくるけど……今日は、特に恥ずかしくて仕方ないです……

 

「美央、鴨紅さんが困ってるだろ。やめろって」

「はーい……」

 

 お兄さんが止めてくれたけど、でも、私がこうして攻められているのを見ても、何も思ってくれなかったのは悲しいかも、と考えてしまいました……なんだか私、変かもしれないです。

 そんな恥ずかしさで顔を上げられずにいると、いつの間にか隣にお兄さんがいました。

 その距離は自分の考えていることが伝わってしまいそうで、とにかく話をプレゼントのことに戻して……

 

「あ、あの、ごめんなさい。プレゼント、せっかくもらえたのに、同じもの渡してしまって……」

「いや、俺こそごめん。あ、えっとさ……ちゃんとつけとくから。鴨紅さんはそれ、どうしてもかまわないから」

「い、いえっ! ちゃんと私もつけておきますっ!」

 

 お兄さんからの贈り物。それを大切にできないわけないです。

 おそろいになってしまいますけど……たぶん、お兄さんも恥ずかしいはずなのに、つけておいてくれるなんて優しいこと言ってくれたのに。私だけそんなことできません……

 

 今、お兄さんが優しいのはみおちゃんの友達だからだろうけれど……

 いつか、私のカバンにかかっているキーホルダーのように、くっついていられる関係になりたい。

 そんなことを、思っていました。

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