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ダブルアタック!  作者: MMR
6章 電車の中で
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34.気まずい時間

「あ、あの……」

 

 しっかりと女性に寄りかかられている状況を見られてしまった俺に対して、鴨紅さんは俺をまっすぐ見たかと思えば、視線をそらしてまた違う一点を見るの繰り返しになっている。

 おそらくというか間違いなく、その視線の先は自分の反対にある俺の肩に向いているのだろう。しばらく俺の顔と肩へ視線が交互に向いていたのを感じていたが、時折どちらでもなく、うつむいたりもしている。

 俺としても鴨紅さんをフォローしたいところなのだが、だからといって乱暴に女性を起こすわけにはいかず、ゆっくりと寄りかかられている肩を下に引き抜こうとする。

 

「は、はは……まいったよな、こんなに気持ちよさそうにしてたら起こすわけにもいかないしさ」

 

 我ながら白々しい言い訳をしていると思った。

 なにせ自分が言ったセリフ通りだとしても、その相手がくたびれたサラリーマンの男だったりしたらどうだろう。起きようがなんだろうが、即突っつくなりして元に戻す行動に出るのは間違いないのだ。

 とはいえ、さすがに鴨紅さんに見られてまでこの状況を維持したいと考えるほど、俺も神経は太くないわけで。

 俺は鴨紅さんに顔を向けたままに、引き抜いた肩に加えさらに体を離すように試みてみる。

 

「ひゃっ……!」

「あ、ご、ごめん!」

 

 鴨紅さんの視線が一度俺から外れ、その腕と体を縮こませるようにしながら身をよじる。

 ……鴨紅さんのわき腹に肘が当たってしまっていた。

 その跳ね返すような柔らかさと、夏の暑さもあってじんわりと熱が伝わってきたのを感じたわけだが、とてもそんなことに浸っていられるような状況ではない。

 

「い、いえ……平気です……」

「いや、あのさ、こうやって離れようとしてもついてくるし、どうすればいいのかわからないな」

 

 まったく、どうしてこういう時に限ってこんな嬉し恥ずかしなシチュエーションが続いてしまうのだろう。俺が離れようとしても、隣の女性の首の傾き具合が更に増すだけにしかならず、むしろ深く俺の肩へと入り込んできている。

 誰も干渉しないようなタイミングならこれ以上ないほどの至福の時間なのかもしれない。しかし今はそんなことを楽しむ余裕もなく、ただ気まずいだけでしかない。

 鴨紅さんは自分を抱えるようにしながら、俺と視線を合わせずにただ黙り込んでいる。今やるべきことは、鴨紅さんにどう言ったところで言い訳っぽい言葉を連ねることなのか、とにかく肩にかかる心地よい重みから離れることなのか。髪から漂う甘い香りもくすぐって、何一つ判断することができないのが困る。

 まったく事態が好転しない。俺がどうしようかと無い頭を回転させているうちに、鴨紅さんに沈黙を突破させてしまった。

 

「あ、あの……交代してくださいっ!」

「……え?」

「その席、私と……その……」

「あ、ああ、そうしようか」

 

 どうしようか考えている途中だったのもあって、鴨紅さんのその提案にしばらく答えられなくなってしまった俺は、返事に詰まってしまった。

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