31.試着中
カーテンから顔を引っ込めた後はようやく真面目に着替える気になったらしい、会話も布の擦れる音が変わらず聞こえてくる中、少なくとも美央の俺への嫌がらせに近い行動を仕掛けられる気配はなくなっている。
女性用の水着は当たり前だが着た経験がないので、どのくらい時間がかかるものなのかは分からないが、男のように短パン一つはけばいいようなものとは違うのは明らかだし、変に急かすこともできない。
俺は一人、多少手に余す気持ちになりつつも、着替えが終わるのを待っていた。なんだか、放置されたら放置されたで悲しいものを感じてしまった。美央に抗議していた割にそんなことを思ってしまうのだから変な話だ。
いや、さっきのがやり過ぎなだけなんだよな。そろそろ、美央の加減をする感覚の欠如っぷりはどうにかしてもらいたい。
なにせ、鴨紅さんが出てきた時にはカーテンにピタッと体のラインが強調されて……
……まあ、悪くはなかったかもしれない。
「おにいちゃん、何ニヤニヤしてるの?」
「……はっ! いやニヤニヤなんてしてないぞ!」
「ふーん……ホントにニヤニヤしてたんだー」
突然の美央の呼びかけに、おそらくバレバレなほどに明らかにうわずった声で受け答えをしてしまった俺は、すぐにその行動を後悔する。
声のした方向を見ても、まだカーテンは閉められたまま、顔が出てもいないのだ。
「……見てもないのに適当なことを言うな」
「気づかないおにいちゃんが悪いんだよ? さっきのるりちゃんの姿が刺激的だったのはわかるけど、そんなに簡単に動揺してバレバレじゃ、嫌われちゃうよ?」
「ほっといてくれ」
いちいち美央の言っていることが合っているから困る。まったく言い返せない。
「ほっとけないよー、だって今カーテン開けて襲いかかられても困るんだよ?」
「襲いかかるわけないだろ、こんな公衆の面前で」
「二人きりになったら襲いかかっちゃうんだ……どきどき」
「頼むからこれ以上俺の評判を下げないでくれ」
どこか他の女の子の爆弾が爆発したりとかしないよな?
まあ、そんな女性の知り合いがいないというところが悲しいところだが。
「さってと、おにいちゃんをからかうのはこれくらいにして、るりちゃん大丈夫だよ、おにいちゃん襲いかからないって」
……色々突っ込みたいところだが我慢しておく。
「でも、これでも襲いかからないって言えるかな? どきどき」
どうやらこのやりとりをしている間に着替えは終わっていたらしい、美央がまた余計なことを言い出したのと同時に、カーテンが開けられた。