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ダブルアタック!  作者: MMR
5章 夏のお決まりコース
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29.夏と言えば

「なあ、美央」

「なーに? おにいちゃん」

「帰っていいか」

「えー? ここまで来て帰るなんてひどいよ……しくしく」

「ここに来たいとは一言も言ってないんだが」

 

 俺は見回す限り女性一色であるこの現場を確認しつつ、美央に最後の抵抗をしてみる。

 バイトが終わるまで待ってほしい、帰りに寄りたいところがあるから付き合ってほしい。何度も離脱することを試みたものの、美央に腕をつかまれ、結局美央の最終目的地までたどりついてしまった。

 鴨紅さんも一緒についてきていたので、彼女と一緒に行けばいいじゃないかと言っても聞き入れてくれなかったが、この光景を見る限り、無理矢理にでも押し通すべきだったと今になって後悔する。

 鴨紅さんも聞かされていなかったのか、そして今から何をしようとしているのか悟ったのか、頬を赤らめながら、声が小さくて良く聞こえはしなかったが、美央に抵抗の言葉を投げているように見えた。

 

「るりちゃんも恥ずかしがっちゃだめだよ、せっかくの夏なんだよ? 夏と言えば海だよ? 海と言えば水着だよ?」

 

 美央があまりにもお決まりの台詞を言い放って鴨紅さんの両肩に手を置く。

 すっかり放置される形になった俺は、デパートの特設コーナーでカラフルに取り揃えられる女性用水着を前にして、向かってくる女性客の視線に肩の力が抜けるばかりで。

 さらには今の美央の発言によってますます注目を浴びてしまったわけで、俺はこれ以上抵抗する気も失せていた。

 

 

「ねね、るりちゃん、どんなのがいいと思う?」

「え? えっと……みおちゃんならこの黄緑の水玉のついたビキニとか……」

「ちがうよー、るりちゃんが着る水着だよ? ほらほら、せっかくおにいちゃんが目の前にいるんだよ? ぐっと引きつけるようなもの選ばなきゃ。これとか!」

「ええっ!? そ、そんなの無理だよぁ……」

 

 美央が鴨紅さんに、隠す部分以外すべてヒモで構成されている水着を見せている。しかもその隠す部分もかなり面積が狭くて、その、なんというか色々とこぼれてしまいそうな……

 鴨紅さんが無理だと言うのも当然だ。というのは真面目に思っていたつもりだったが、どうやら美央には別の思惑が漏れていたのを捕まえられてしまったらしい。

 

「ほらほら、おにいちゃんが期待に満ちた目してるよ?」

「ば、バカ言うな」

 

 普段なら違うとすぐに言っているはずのところだが、俺だって男なわけで、否定することができずに中途半端な返し方になってしまった。言い訳しようにも、そもそも今回ばかりは本当だったりするわけで、言葉に詰まってしまう。

 そんな心の内をバレないように、と思ってもそんな本音の前にはどうしようもなく、美央は目が笑っているし、鴨紅さんにもそれが見透かされてしまったようで、うるんだ目で俺をまっすぐ見てきている。

 

「はうう……あ、あの、こういうのがいい、んですか?」

「いや、えっと」

「おにいちゃんはこういうの大好きだと思うよ?」

「美央は余計なこと言うな」

「じゃあおにいちゃんからちゃんとリクエストしてみたらー? たぶんこれがリクエスト通りだと思うけどね?」

 

 ここぞとばかりに美央が畳みかけてくる。何も言い返せないのが悔しい。

 

「というわけで、るりちゃんにこれ着てほしいみたいだよ?」

「そ、そうなんですか?」

 

 鴨紅さんが俺に聞いてきたものの、どう答えていいものか迷った。ストレートに着てほしいとか言うのは露骨すぎて印象悪そうだし、かといって否定するのも、期待していないみたいな言い方になってしまいそうで、そもそも本心でもない。

 結果的に何も答えないでいると、鴨紅さんが「わかりました」と切り出す。

 

「その……似合わなくても、笑わないでくれますか?」

「わ、笑わないよ」

 

 美央に渡された水着を握りしめ、のぞき込むようにそんなセリフを言われてしまったら、キャラに似合わず顔が緩みそうになってしまうのも仕方ないのだ。しかし、そうやって押さえつけるにも限界は近い。

 

「えへへ、じゃあ最初に試着する水着は決まりだね? じゃあ着替えてこよっか」

 

 どうやらその限界を突破する前に一息つける時間ができるようで助かった。「最初に」と言っているあたりが気にはなるが。

 しかし、気を抜くにはまだ早かったようで。

 

「のぞかないでね、おにいちゃん?」

「のぞかないっての」

「どうしてもって言うなら、一緒に入っても」

「ええっ!?」

「冗談はほどほどにして早く着替えてくれ」

 

 美央が相手だと、やはり油断ができない。

 鴨紅さんが相変わらず本気で俺がついてくるのかといった顔をしているように見えたのが悲しかった。

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