27.特別な人って?
「美央、そろそろ注文していいか。なんかすごく疲れた」
俺は考えたあげく、ひとまずオーダーするという結論を導き出した。
美央をこれ以上ここに置いておくと事態が悪化するばかりだろうし、今のやりとりで疲れて何か頼みたいのも事実。なので、さっさと注文して美央をここから離れさせること。俺が取った行動は、そんな素晴らしく合理的なプランなのだ。
ファミレスに来たわけだから、注文すること自体は当たり前ではあるのだが。
「あっ、ちょっと待って?」
しかし、俺の思うとおりに事は運んでくれないらしい。美央が何かを思い出したかのように斜め上を見ながら右の人差し指を立てている。
「いや、一応客なんだけどな、俺。オーダーくらいちゃんと……」
「うん、オーダーは取るよ? でもでも、せっかく来てくれたんだし、わたしじゃなくて特別な人にオーダーしてもらおうかなーって」
「特別な人って……誰が」
なんだか、ますます辺りの男性陣を敵に回すようなことが起こる予感どころか、ほぼ確信のようなものを感じてならない。
「えへへ、おたのしみだよ? せんぱーい!」
「美央ちゃん? どうかしたー?」
美央がもう一人のフロア人員らしい、厨房の近くにいる女性を呼ぶ。
こちらを向いたその女性は、活発そうで、今聞いただけでもはっきりとした通る声で、とにかく人当たりの良さそうな人だった。
不思議と、どこかで見たことがあるような気がする……その答えを導き出そうと彼女を見ていると、ふと視線が合った。すると彼女はあっ、と口を開け、俺の座るテーブルまで駆け寄ってきた。
開口一番、お約束の言葉が飛んでくるわけだが。
「美央ちゃんの大切な人が来たのかな?」
「あうあう……せんぱい、本当のこと言わないでくださいよー」
美央が食事を乗せるプレートを抱え、飛び跳ねながら抗議している。俺のことを時折見てくることからして、この動作が本気での行動でないことは見えるわけだが。
とにかく、相変わらず間違ったことを触れ回っているらしいことだけは理解した。美央のことはとりあえず置いて、少なくとも否定だけはしておかないとそのまま受け取られてしまう。
「誤解を招くような言い方は止めてください」
「あうう、やっぱり私のことスルーされた……」
「あはは、いい妹さんじゃない? ところで私のこと覚えてるかな。前に美央ちゃんと来た時に接客したの、私なんだよ」
「ああ、そういえば……」
「せんぱい、というわけで、いいですか?」
「あ、そうだね。うん、許可します。美央ちゃんはここで待ってて。呼んでくるわね?」
「えへへ、お願いします」
俺がどこかで見たことのある人だと思っていたのが解決に至ったところで、更にもう一つの疑問が生まれる。それはどうやら「特別な人」というのが彼女のことではないらしいことだ。
美央が先輩と呼ぶその人は、再び元にいた厨房の方へと向かっていく。今の会話の流れからして、これからその答えが出るということなのだろう。
「お待たせー、連れてきたよー!」
再び戻ってきた彼女についてきた人物に、俺はどう反応していいのか迷った。
きっとまた、どう行動しようが反感を買うことは間違いないのだろうから。