26.ギャラリーを味方に
「というか美央、ずいぶんと客に気に入られてるみたいだな」
「えへへー、惚れ直した?」
「できれば俺まで巻き込んで注目を浴びることはやめてほしいんだが」
「おにいちゃんだけのわたしになってほしいなんて……やっと言ってくれたね?」
「そういう考えに持っていける美央はすごいと思う」
考えてもみれば、さっきから俺に飛んでくる視線が止まないのは、この男連中が俺に一目惚れでもしていない限り美央の人気によるものになる。
……余計なことを考えて、寒気を感じてしまった。とにかくだ。
「なんでこんなのがいいんだか……」
そう思うのだった。
すると美央は一度「むー」と言いながら眉を細めていたが、その後一瞬、俺に見えないようにしているつもりなのか、うつむき加減になっているものの口元が上がったのが見えた。
これは、相変わらず俺を陥れようとしている合図と取るべきなのだろう。そして、その予想は見事的中していたらしい。
「うう……おにいちゃん、そんな言い方ってないよー、しくしく。わたしはただ、おにいちゃんにほめてほしかっただけなのに……」
美央がわざとらしい泣き真似を仕掛けてくる。なるほど、今回は俺に対して情を訴える方向で来たか。
だが、俺も毎度のごとく流されてばかりはいられない。むしろこれは、泣き落としなんて毎回は通じないと知らしめるチャンスなのだ。
「今回は俺も騙されないぞ、そんな泣いたフリしても毎回……は……」
しかし、俺の言葉はここで先に続けることができなくなる。辺りからの、ささやくような声ながらも聞こえてくる言葉が、無視できなくなるくらいに広がりを見せていたのだ。
「おいあの男、美央ちゃんを泣かせてるぞ」
「俺たちの美央ちゃんを弄びやがって」
「あいつはなんなんだ。手に入れたら突然冷たくするなんて最低だぜ」
「おにいちゃんとか呼ばせてるし、そういう性癖のあるやつはやっぱりまともじゃねーんだよ」
……こいつらが騙されてやがった。
そもそもお前ら、ここまでのやりとりを見ておいて俺が本物の兄だという至極全うな結論は持ち合わせていないのかという話だ。
そして美央が俺に何かを期待しているような目を向けているのを見て思う。むしろ弄ばれているのはお前らなんじゃないかと。
ただ、俺もその中に含まれていると見て間違いはないらしい。この状況を無視してまでこのまま態度を突き通すことなど、今の俺にはできなかった。
「くっ……ま、まあその制服は似合ってるし美央にピッタリかもな……」
「えへへ、やっぱりおにいちゃん優しい。嬉しいなー」
美央はこれでなんとか満足したようだが、俺はというと……
「くそっ、あいつ俺たちでも言えないようなことをさらりと言いやがって」
いや、それは俺関係ないだろ。お前らが言えないだけだろ。
「美央ちゃんもまんざらじゃない顔してますぞ……あんな顔、ぼくにだって見せたことないのに」
だから俺は兄なんですけど。むしろまんざらじゃない顔してたとしたら、かなり問題あるんですけど。
「強力なライバル出現だな……そろそろ本気を出さなければならない」
ここ、一応ファミレスなんですけど。そんな本気を出す場所に適してないんですけど。
色々ツッコミどころが多くて困る。それに突き放してもほめても同じ結果になっている俺はどうすればいいのか。
公の場所だけにがっくりとうなだれてばかりもいられず、疲れはたまる一方だった。