24.怪しい呼び出し
鴨紅さんの写真の一件が、無事とは言えないまでも、とにかく一段落。
その後は、あまりにも普段とかけ離れたことばかり起こっていたあの日とのギャップも手伝い、平和そのものといった日々だった。
いつものように母親に白い目線を向けられたり。
美央が飛びついてくる時に限って、あたりに人が大勢いたり。
鴨紅さんは以前にも増して目を合わせてくれない。
……全然平和じゃなかった。
そんな、自分から落ち込む方へ飛び込んでいったある日の学校の放課後のことだった。
ホームルームが終了したとほぼ同時に、一通のメールが俺の携帯電話を震えさせているのに気づいた。
誰からかなど、言うまでもない。こんなにも見計らったかのようなタイミングでメールをよこしてくる人物など、一人しか思いつかない。
『ちょっと話を聞いてほしいんだー! 今日、予定は何もなかったよね? だから、ゆっくりでいいからフェアリードレスまで来てね? わたしは一緒には行けないけど、すぐに追いかけるからね! もし来なかったら……どきどき』
「普段の話し方と全く同じなのか……」
話し言葉でしか使わないと思っていたあの語尾だが、まさか文章にまで取り入れてくるとは。
それ以前に相変わらず俺の予定を把握していることに恐怖さえ感じてくるわけだが、下手にどうやって知ってるのか聞いたら引くような回答をもらいそうなので、きっと考えない方がいいのだろう。
と、現実から逃げようとしてみたものの、メールの内容が変わるわけでもなく。
行っても行かなくても面倒なことになること間違いなしの美央からのメールに、俺は大きく息をついた。
「いらっしゃいませー!」
わざわざ電車で一駅の移動をしてまでやってきた、フェアリードレスの玄関。
この名前だと、一瞬いかがわしい店のようにも思うだろうが、実際は、簡単に言えばファミリーレストランだったりする。一度だけ美央と入ったことがあり、なかなか料理も凝っていたという印象がある。
名前の由来は店の制服がかわいいから、それにちなんでらしい。美央の言うことが本当ならば、だが。
しかし、いくら気に入ったからといってわざわざ学校の放課後に呼び出すこともないだろうに……律儀に来てしまっている俺も俺なのだが。
まあ、一人でぶつくさ言っていても怪しいだけだろうし。ひとまず入口のドアに手をかけることにする。
と、目の前に飛び込んできたのは、俺の今の気持ちとは対照的すぎて、まぶしくてその目を細めたくなるほどの笑顔を向けてくるウエイトレスさんの姿だった。
嫌が応でも目を引くピンク色のワンピース型な制服に、ポニーテールの結び目やら、胸元やら、白いエプロンの縁やら、とにかくスペースに余裕があれば詰め込んでみましたと言わんばかりの場所に蝶々が舞っていたりするのだ、もはや直視もできない。もちろん、主に見ているだけでも恥ずかしいという理由だ。
さっき確認したばかりだが、フェアリードレスってファミリーレストランだったよな? 以前に来た時も感じていたことだが、あまりにも男性客を狙っているような服装に、俺はその根本から疑いすらかけたくなる。
まあ、近くの大学で放送しているローカルラジオのDJが、スポンサーなのも影響しているのかもしれないがやたらここのウエイトレスがかわいいとプッシュするところからして、俺の予想は当たっていると言っていいのだろう。
と、ある一点をあえて無視して、一通りツッコミを入れてみたものの。
どうやら、最初にツッコむべきその一点に気づかないフリをするのもそろそろ限界のようだった。