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ダブルアタック!  作者: MMR
3章 どきどき撮影会
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Event.3 父親のいる日

 鴨紅さんは、もう父親にデータを送信したのだろうか。

 始めるときにはこんな大変なことになるとは思っていなかった鴨紅さんの撮影。だがその苦労もむなしく、結局、撮ったものはほとんど使いものにならなかった。

 その理由は、特別写りが悪いとか、技術的なものではない。あまりに色々と親に送るには問題があるものが多かったためだ。

 それは撮影を終わらせた後、鴨紅さんとはギクシャクしながらも、とりあえずチェックはしなければならないとデジカメをみんなで覗いて一枚ずつ見ていた時に、画面を隠されたりデジカメ自体を奪い取られたりして更にギクシャクしそうになったことからも伺い知れるだろう。

 美央が「えー? いいと思うのに。じゃあこれはおにいちゃんのポケット行きだね?」とか空気の読めないことを言ってくれたおかげで、鴨紅さんと共にターゲットを美央に向けることができ、そこまで悪化することはなかったが……

 そういう意味では、美央はいいムードメーカーなのかも知れない。

 

「そんなわけないか」

 

 そもそもそうなる原因を作ったのは美央だ。ムードメーカーの前にトラブルメーカーなのだ。

 自己完結の最後の結論だけ口に出たためか、あることを二人で考えるため目の前にしていた俺以外のもう一人、まさしくその張本人である美央の口が尖った。

 

「むー、今わたしのこと悪い意味で考えてたでしょ……良い意味ならいつでも大歓迎なんだけどなー、どきどき」

「いいから真面目に考えてくれ」

 

 そもそも何がどう「良い意味」なんだと言うのだろう。

 深く掘り下げてもあまり聞きたくない答えを聞かされそうなのでやめておくとして、そう、今は何かないかと考えなければいけない。

 それは、鴨紅さんが父親へ写真を送るということを改めて意識して思い出したもの。

 6月の第3日曜日に、所謂父の日というイベントがあることだ。

 

 うちの父親は平日は当然のこと、休日も家にいないことが多い。平日に関しては、母親の……主に美央に関係する「攻撃」ならぬ「口撃」を、毎朝クッションも無くまともに食らっていることからも分かるわけだが、平日どころか休日もさほど変わりない扱いをされていることを思うと、日に関わらず家にいないのが割と普通のことだったりする。

 まあ、そんな思い出し方をしないと父親の存在を忘れるなんてのもどうなのかと、自分でも思うわけだが。

 とにかく、父の日にあたる日は珍しく父親が家にいる予定らしい。こうして生活できているのも父親のおかげであることは否定できないし、何もしないのもどうかと思うので、当日のことを美央と一緒に考えようと呼んだわけだ。

 

「マジメに考えてないと思ってたのー? えへへ、わたしにいい案があるよ? おにいちゃんはとにかく、わたしの隣に座ってくれていればいいから!」

「……なぜ内容を伝えようとしないのか、気になるんだが」

「言っちゃったら、おにいちゃんは演技っぽくなっちゃうでしょ? だったら言わない方がいいかなーって」

「なんだろう、すごく嫌な予感がする」

「おにいちゃん、それは武者震いってやつだよ?」

「絶対違うと思う」

「むー、せっかくおにいちゃんに負担がかからないようにかわいい妹が提案してあげてるっていうのに、ひどいよ……しくしく」

「その提案を言わないから問題だってだけなんだが」

「だって言っちゃったら演技っぽく」

「以下ループでお送りしますな話にするな」

 

 しかし結局、話はループとまでは行かないまでも、美央がかたくなに案を話そうともせず、平行線のまま父の日を迎えてしまうことになるのだった。

 

 

 そして、その父の日。

 仕方なく美央の言うとおりに父さんを目の前にして、美央と並んで座っていたわけだが。

 

「お父さんに父の日のプレゼント、というか……あのね?」

「ちょ、おい」

 

 何を思ったか、美央は父さんを目の前にして俺の腕にしがみついてきたのだった。

 

「おにいちゃんとわたし、こんなに仲良いんだよ? だからお父さんはわたしたちのこと、心配しないでいいからね?」

 

 まさか、これが父の日のプレゼントというやつなのか。

 で、そんなこと言われて、俺はどう反応していいのか。そういう意味では確かに言われたとおり演技にはなってはいないかもしれない、が。

 父さんを目の前に言われてしまった以上、ここであまり俺としても下手なことは言えない。まずは父さんの様子をうかがってみると、こめかみが小刻みに動くのが見えた。

 その一瞬の挙動は、俺の背中に冷汗が流れるには充分な話で。

 考えてみれば、母親にこそこういうシーンを見られるのは日常茶飯時のように行われてきてしまっているが、父さんの前で見せてしまったのは初めてのことかもしれない。

 

 これはどうやらマズイことが起こりそうな予感がする。

 とばっちりながらも、怒られることを覚悟しなければいけない。

 そう思った時だった。

 

「すばらしいじゃないか!」

「……はい?」

 

 なん……だと?

 予想外の父親の言葉に、俺の頭が考えることを瞬間、拒否しかかっているような感覚に陥る。おかげで、声が出るまで時間を要してしまった。

 

「こんなに兄妹が仲良くやってくれていて父さんは嬉しいぞ!」

「いや、あの……」

 

 父さん、腕とか絡めているのはスルーですか?

 そう言いたいところだったが、立ち上がり、今にも涙を流しそうなほどの父さんの迫力に負け、言い出すことができない。

 

「我が家は安泰だ! 安心してまた仕事に立ち向かうことができる! 雄斗、美央、充分すぎるプレゼントだ。引き続き仲良くやってくれれば、これ以上望むことはない!」

「えへへ、大成功だね、おにいちゃん?」

「嘘だろ……」

 

 母親とは違う意味で、やっかいな話になってしまっている。というか父さん、母親の普段の言動は少なくとも俺にとって安泰ではないんですが……

 父さんだけはまともだと思っていたのに、どうやらこの家族は全員が変だったようだ。

 

 自分で言っておいてなんだが、この言い方ではそこに俺が含まれてしまうと気付いて嫌になった。

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