23.どきどき撮影会11~言えば言うほど
目の前では鴨紅さんがじっと、俺に期待を寄せるように何か話してくれることを待っているらしい。
お互いに向き合いながら座っていても、俺からだと見下ろすような形になる鴨紅さんが、さっきのような嬉し……いや、鴨紅さんにとっては恥ずかしかったであろう事態になるのを避けるように、胸元に手を当てながら俺を見上げている。
それは、撮影を始めた時みたいに軽く添えるようなものではなく、力がこめられているのが分かる。その証拠に、鴨紅さんの顔に赤みが差しかかっていた。
しかし、今日はずっと鴨紅さんの恥ずかしがる表情ばかりを見ている気がする。増してや思いもかけなかった出来事が起こり続けているのだ、そのおかげで俺の「理性」とやらは崩壊の一途をたどっていたらしい。
「かわいい……」
心の中でとどめておくべき言葉が、声に出てしまったのだった。
「えっ……?」
まずい、と口を塞いでみたものの、言ってしまったからにはそんなことをしても無駄だった。鴨紅さんの戸惑いの声と表情が、当然のごとく俺に向けられる。
「あ、いや……そんな表情をする鴨紅さんをお父さんが見たら、かわいすぎて心配になってしまうだろうなって」
ここで何も言わないのは、どうしても不自然になる。
なので冷静に、取り繕うように言ってみたものの。
あまりに苦しい。苦しすぎる。
そもそも取り繕うどころか、口をつくように出てしまった「かわいい」という言葉に対して、ごまかしにさえなっていない。それに気づくのも、言った後ではもう遅かった。
もはや取り返しのつかないことはわかっているのだが、目の前にいる鴨紅さんの頭から煙が出そうなところを見る限り、俺も更に言い訳がましく言葉を続けざるを得なくなっていく。
「じゃなくて! あ、えっと、充分鴨紅さんの魅力が詰まったものになったと思う! お父さんもきっと喜ぶよ、はは……」
……もちろん、それは余計に自爆する方へと向かっていくわけだが。
「その通りだよ、おにいちゃん!」
そして、そのタイミングで部屋のドアが開けられるのは、もはや偶然ではないのだろう。
「ようやくるりちゃんの魅力に気づいたんだね! 遅いくらいだよ……やっぱり二人きりにすると効果あるんだねー、どきどき。無言になった時はどうなるかと思ってたけど、やっぱり通じあってるって言うのかな。ほらほらー、るりちゃん、おにいちゃんと二人になってどうだったのかなー?」
美央が鴨紅さんの頬を人差し指でつついているのを見ながら思う。
やっぱりドアの陰に隠れていたんだな、と。