21.どきどき撮影会9~絵になってたから
「い、いや! 迷惑とかそうは思ってないから!」
言いながら、俺はいったい何をぶちまけているんだと思った。色々見せてしまって迷惑じゃないかと鴨紅さんが聞いてきてこんな答えをしていては、まるで俺がもっと見せてくれと望んでいるみたいじゃないか。
鴨紅さんの言葉に、どうやら平静でいられなくなっているらしい。慌てて考えずに言葉を発してしまったのもよくなかったようだ。
「そ、そうですか……よかったです」
いや、何がよかったんですか鴨紅さん!
自分の言っていることに気づいたのか、それとも俺の態度でわかったのか、言い終わった後に俺を見た鴨紅さんは目を大きく見開く。
「はわわ! そのっ、違うんです! 見て欲しいとかそういうことではないんですっ! ただ、迷惑じゃないってわかっただけでも……って、はうっ、そうでもなくてっ」
自分の胸の前でクロスさせながら両手を大きく振っている鴨紅さんが、妙に可愛らしく映る。
俺は、そんな素の状態の鴨紅さんに悪いとは思いつつも、その姿を切り取りたいという願望に負けてしまったらしい。
「こ、こんなところ撮らないでくださいっ……」
「いや、ごめん。絵になってたから、つい」
涙目の鴨紅さんに、つい笑いが漏れてしまう。その慌てぶりがなんだか小動物的というか、頭をなでたくなるような感覚に陥った。さすがにこんな鴨紅さんがあまり機嫌のよろしくないタイミングで実行に移すわけにはいかないが。いや、機嫌がよろしくても恥ずかしくてできないが。
しかし……こう考えてしまったということは、美央の鴨紅さんに対する行動を理解できてしまったのと同じな気がして、なんとも悔しいものがある。しかもなんだ、「絵になってたから」なんて、恥ずかしいことを言ってしまう始末だし。
「とにかく……今までのことは無かったことにして、さ。美央のいないうちに、ちゃんとした写真、撮ろうか」
「そ、そうですね……はい、お願い、します」
そんな自分の言葉を取り消したくて、慌てて俺は続けた。しかも、焦った余りにそれは一方的に俺の都合が良いことで。色々ずるいかもしれないと思ったが、ありがたいことに鴨紅さんも同意してくれたので、仕切り直すことができた。
無理矢理だったかとも考えたものの、ずっと沈み込んでいた鴨紅さんがようやく笑顔で返してくれたところを見る限り、充分この切り返し方は成功と言っていいのかもしれない。
……もちろん、これも都合のいい解釈と言われたらそれまでだが。
とにかく、こうして無事、美央のいない隙を狙った二人だけの撮影会が始められる。わけだが……
こんな言い方をするとますます怪しいとしか感じないのは、気のせいだと思いたい。