20.どきどき撮影会8~取り残されるふたり
「じゃあ、私はちょっとトイレ行ってくるから、るりちゃんのことよろしくー」
信じられないことに、目を回している鴨紅さんを尻目に、美央がそんなことを言い出した。
なんというフリーダムな行動なのか。この状況を俺に丸投げとは、俺には到底できない。それを実行してしまうあたり、本当に美央とは兄妹なんだろうかと、一瞬疑問に思ってしまう。
あんまりな発言に呆気にとられていると、本当に美央は部屋を出ていってしまい、俺は鴨紅さんと二人取り残されてしまった。
「嵐が去った……」
出てくる感想もそんなものしかない。美央の出ていったドアを見つめ、俺はつぶやいていた。
が、そうして目の前にある問題が解決するわけがないのは充分わかっている。現実から目をそらそうとしても、ここにうずくまっている鴨紅さんを無視しきれるわけもなく。
ドアから目を離すと、ずっと俺をまっすぐに見ていたのかもしれない、座り込んだままの鴨紅さんの視線と交わった。ここまでの出来事を考えれば当たり前だろう、視線が合った途端、鴨紅さんの目がさらに潤みだしたり、まぶたが少し下りたりしていた。
俺としてもこんなことになった経験がないし、というかあってたまるかと思うわけだが、何ともコメントしようがなくなってしまう。しばしの沈黙が続いた。
ただでさえ美央がいなくなったことで余計に強調されたこの部屋の静けさ。どうしてくれようか。
鴨紅さんが何か切り出すことはとても期待できない。ただでさえ鴨紅さんから話をするのを見たことがないのだ、ここは俺がリードするしかないだろう。
「ごめん、美央がいつもいつも」
もはやこんな謝罪も何度目になるかわからない。そろそろ使い古されすぎてちゃんと心に響かないかもしれないと、そんな不安もよぎる。
「あの、お兄さんのせいではないですから……謝らないでください」
「いや、でも、色々と、さ。不可抗力だったとはいえ」
その中身を説明するところまではさすがにできず、一つ一つの言葉が切れ切れになってしまう。
「迷惑……でしたよね」
「え?」
鴨紅さんの言葉に、俺は意味が分からず聞き返す。
どちらかというと迷惑をかけているのは俺と美央で、鴨紅さんが迷惑をかけていると思わなければいけない点などなかったように思う。
あ、それとも。
「いや全然迷惑とは思ってないから。撮影の手伝いをするなんてなかなかできない経験だし」
最初カメラを渡された時は渋っていたりもしたわけだが、今となっては美央の行動はともかく、撮影の部分に関して迷惑と思ってはいない。
だが、その見当は外れたらしい。
「あ、あの……そうではなくて、私なんかの、色々なの見せてしまって、迷惑かな、って……ごめんなさい」
非常に返答に困る話だった。