18 どきどき撮影会6~ひとまず休憩を
撮影をはじめてから三十分ほど経った。
だがここまでの結果として、どう解釈したところで鴨紅さんの親に見せられるほどのまともな写真が無い。よっぽど表情が固めの最初の写真が一番良い出来な始末だったりする。
何が問題かって、言うまでもなくプロデュースの仕方にあるのは間違いないだろう。
「むー、おにいちゃん? 今わたしがダメみたいな見方してるでしょ……」
「それ以外にどう考えろと」
鴨紅さんの様子をうかがってみると、部屋の隅で立ったまま、背中を向けて一切こちらを見ていない。これは俺の幻覚なのか、渦が巻かれているかのような暗い影を落としていた。
これを作った原因が美央以外に考えられるだろうか。
……俺なのかもしれない。直接的に考えて。
「人の責任にしちゃだめだよ」
「とりあえずお前が言うな」
その前に、よく鴨紅さんも文句一つ言わないなと思う。さっきから一言も発していないところからして、言えないくらいに混乱しているのかもしれない。
「仕方ないなあ、とりあえず休憩! るりちゃん、そんな隅っこにいないで早くこっち来なよー」
だからお前が言うな、と再び言いたいところだが、二度も同じツッコミをしたら負けなんだろうか。
そんな考えが巡ったために、特に何もアクションを起こさずに動向を見守っていると、鴨紅さんが振り返り、肩をすくめて小さくなりつつ、こちらに向かってくる。
もうこれ以上無いほど赤くなった表情には、疲れさえ見えた。目を閉じてため息をついている姿が、そう確信させてくれる。
しかしこの状況でも美央の言うことを聞くとは、なんという調教……もとい、健気だと表現するべきなのだろうか。
「お、お疲れさま、鴨紅さん」
話題も見つからず、だからといって今の出来事をぶり返すわけにもいかず、無難な挨拶をかけてみる。
「は、はい。あの、ごめんなさい……」
俺の目の前で、鴨紅さんは今度こそスカートを必要以上にというか、体重を乗せるようにして両手で押さえて座り込み、挨拶に応えてはくれた。開口一番俺に謝ってくるあたり、純粋さがよく表れていると思った。
でだ。
その純粋さを守るために、俺はここでどうすればいい?
行動からして前かがみになっている鴨紅さんを見て、俺はまたも判断を迫られている。
頼むから美央、余計なことを言うなよ……
俺は鴨紅さんから視線をそらしつつ、美央に目配せをしようとした。のだが。
「るりちゃん、さすがー! そうやってボタンを開けたブラウスの隙間から胸元見せて、おにいちゃんのハートをギュッとつかんじゃうのは、いい作戦だね!」
間に合わなかった。
言いやがったよ、わざわざ説明までつけて。
その後の鴨紅さんは、その胸元をおさえることに気がいきすぎてしまったりだとか、とにかく何が起こったのかは鴨紅さんの名誉のために伏せておこうと思う。
結局、まったく休憩にならなかった。