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ダブルアタック!  作者: MMR
1章 妹+α
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2.アタックの理由

 俺が部屋を出て、階段を下りリビングへ顔を出すと、母親が細く冷たい目をしながら、黙って俺に視線をよこしていた。

 とても息子を見るようなものとは思えない。

 

「な、なんだよ母さん」

 

 もともと美央に甘く、差別だと認識できるほど俺を放置している母親なのだが、今日は特に黒いオーラみたいなものが漂っているように見えた。

 

「ついに、警察に届けないといけない時がきてしまったようね」

「は?」

 

 いや、なんですかそのわざとらしいため息は。

 

「実の妹だけでも許しがたいのに、その友達の女の子まで手の内に収めてしまうなんて……どれだけ鬼畜なのよ」

 

 この母親は……俺を犯罪者とでも思っているのだろうか。何かロクでもない行動を俺の部屋でしていたとでも思っているらしい。

 そもそもずっと朝食の支度や洗い物で下にいたんだろうから、見たのは美央と鴨紅さんが俺と同時にリビングの方に下りてきたところだけのはずなのだ。それだけで俺が何かしたと結論づけるのはいかがなものかと思う。

 監視カメラでも仕掛けて俺の部屋を覗いていなければ、の話だが。

 いや、やりかねない。その目の奥が座った様子を見ると、本当にやりかねない。

 しかし、監視されたところで何もやましいところはない。何も焦る必要はない。

 

「いや、手の内に収めるとか、そもそも美央にも何もしてないわけだし」

「部屋に連れ込んでおいてよくもそんなことが言えるわね」

「勝手に入ってきたんですけど」

 

 基本的に母親は俺の言うことなど信用しない。本当にこの家庭はどうなっているのか。

 信用しないどころか警察に届けると言い出すなんて、冗談にしても笑えない。

 

「……つまんないわね」

 

 それは俺が話に乗ってこないことにですか、それとも考えていることが当たらなくて行動に起こせなかったからですか。

 少なくとも前者であって欲しいと願うが、確認するのが怖い。余計なことは聞かないことにした。

 

「あの、お兄さん。私、二人が準備できるまでお兄さんの部屋で待っていますね」

「あっ、そうやっておにいちゃんの部屋をてってーてきに調査するんだね! るりちゃん、やるー」

「は、はうう……そんなことするつもりで言ったんじゃないってばあ……」

 

 こっちはこっちで、母親の火に油を注ぐようなこと言ってるし。それに、そもそもなんで俺の部屋なんだ。

 

「あの、鴨紅さん? 美央の部屋で待っててくれないかな? 鴨紅さんがいると着替えられない」

「はわわ、そ、そうでした! ごめんなさい、みおちゃんのところにいますっ」

「えー? じゃあわたしはどこで着替えればいいの? そうなるとおにいちゃんの部屋で一緒に着替え」

「はわわ! や、やっぱりお兄さんの部屋で待ってますっ! お兄さんが着替える時は目つぶってますっ!」

「いやそれおかしいから」

 

 美央もどうしてそんなこと言うかな。母親の視線が俺の後頭部に突き刺さってくるの、見なくてもわかるんですが。

 ひとまず美央は口を塞いで黙らせておき、鴨紅さんを美央の部屋に行くように促しておく。

 鴨紅さんが再び上へ階段を上っていくのを確認した俺は、塞いでいた手を離し、それまで我慢していたむーむーと俺の手から抜けていく美央の息の音のくすぐったさからようやく解放された。

 

「く、苦しかったよ……もう、いじめることだけは朝からでも積極的なんだから」

「普段から何かやっているような言い方すんな」

 

 本当はわざわざこんなツッコミはしたくないのだが、母親の見えない刃を意味なく受け続けたくはない。一応アピールはしておかないといけない。

 結局、さらに数割増しされるのは変わらなかったが。それどころか「やっぱり、警察に……」とつぶやいているのが聞こえてくる。わざとだ。絶対わざと俺に聞こえるように言ってる。

 

「さ、いい加減朝飯食うか」

 

 これ以上美央とどうこう言い合っていたら、台所から本物の刃が飛んで来かねない。気持ちを切り替えることにして、朝食の置かれているテーブルに向かう。

 美央は不満そうな顔をしているが、これ以上身を削るような不毛な争いはしたくないのだ、妹よ。

 ……朝だからなのか、テンションがおかしい。母親からのプレッシャーがそうさせているとも言えるわけだけど。

 

 

 テーブルに並べられているのは、自分で焼いたトーストと既に作り置かれたベーコンが添えられている目玉焼き。典型的な、洋食スタイルの朝食だ。

 俺としてはご飯が食べたいところなのだが、炊くのが面倒だと言われなかなか実現しない。和食の力を舐めないで欲しいね、ご飯を食べれば集中力が持つんだぞ。学校の勉強にも影響するんだぞ。

 ……うん、全くその言葉に説得力がないから実現しないんだろうな。自分で納得してしまうのも空しいものがある。

 

「ところで、おにいちゃん」

 

 目玉焼きをかじりながら、美央が話しかけてくる。

 俺はトーストをかじりながら目を向けた。話を聞く体勢になる。

 

「るりちゃん、かわいいでしょ」

「何言い出すかと思えば」

「寝起き襲われて嬉しいくせにー」

「美央がセットになってたらそれどころじゃない」

「ふーん……」

 

 突然美央の目つきが怪しくなる。口の端が上がって、ともかくニヤニヤと気持ち悪い。

 

「なんだよ」

「明日から、るりちゃん一人におにいちゃんを起こしてもらうようにしよっか」

「は?」

 

 条件反射で聞き返してしまった。

 

「覚悟しておいた方がいいよー?」

「どういうことだよ」

「だってさ、わたしが今まで色々おにいちゃんにやってきたことって、るりちゃんのためだもん。おにいちゃんのこと気になるからって、わたしがポイントを探ってたんだよ? るりちゃんだったら、わたし許せるもん」

 

 美央が高校生になってからやたらと俺にくっついてきた理由がいきなり解明する。あまりにいきなりすぎてついていけない。それに許せるってなんだ。俺は美央の物じゃないぞ。口に出して言ったらあらぬ誤解を受けそうな感じがするが。

 ただそれを今言ったということは、もう美央は俺につきまとってこないという意味にもとれる。あとは鴨紅さんにそんな行動をしないでくれと言えば安泰なんじゃないだろうか。美央に一応確認をとってみる。

 

「ということは美央はもうくっついてこないんだな?」

「違うよ? べ、べつに、るりちゃんのためだけにやってたわけじゃないんだからね! それにまだまだるりちゃんにいろいろ教えなきゃいけないんだから!」

 

 え、なんでここでツンデレの台詞。

 さらに、いわゆる今までのくっついてくる行動をやめないという宣言が、俺の頭を抱えさせた。

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