15.どきどき撮影会3~最初の一枚
いつの間にか、鴨紅さんの父親に写真を送るのが目的だったはずが、美央の言葉によって撮影会となってしまっているのは、気にしたら負けなのだろうか。
記念撮影程度ならともかく、女の子相手にカメラを向ける機会など、そうあるものではない。撮影会なんて言葉を聞くと、俺もそれなりに緊張してしまう。
「よ、よろしくお願いします……」
今更気づいたのだが、鴨紅さんはいまだ学校の制服姿のままだった。そして、カーペットの上で正座を崩したような……いわゆる女の子座りの格好で、カメラを持って立っている俺を見上げている。
さっきの美央のほぼセクハラまがいとも言える余計な会話もそうだが、それとは別に撮影が始まったこともあるのだろう、鴨紅さんの表情はまだ固い。油がさされていない機械のように、動きもぎこちなかった。
しかし撮らなければ始まらないので、俺はカメラを構えてシャッターを切ると、鴨紅さんの全身を切り取った結果がデジカメの液晶画面に映し出される。
それでも、おそらくここ最近まで父親からあの秘密兵器的なもので撮られているからなのか、俺が撮っても絵になっているような気がする。
笑顔でこそないわけだが、視線はカメラにしっかり向いているし、目もしっかり開いている。
集合写真を撮ると、どうしても緊張して薄目になったり微妙に視線がそれてしまう俺のパターンを考えると、十分なように思えた。女の子だとゲーセンにあるような写真をシールにしてくれる機械で慣れているのかもしれないが、レンズを向けられているのを意識してしまう点で、それとは違うように思う。
だがここで、どうも疑問に思うことがある。
「これなら、美央が撮ったって同じじゃないのか?」
「えー、それは違うよ、おにいちゃん。まだるりちゃんの魅力をちゃんと引き出せてないだけだよ」
美央が俺の撮ったさっきの撮影結果をのぞき込むと、首を振った。
「るりちゃん、いつもと同じじゃだめだめ! ほら、せっっかくおにいちゃんが撮ってくれてるんだよ? 恋人にするみたいに、ほらー」
「こ、こいびと……っ」
鴨紅さんが言葉に詰まっているのを見て、俺は美央に耳打ちをする。
「何を言い出すんだよ」
「やっぱりわかってないなあ、おにいちゃん。こういうのは王道ってやつなんだよ?」
いや、何回も繰り返すことになるが、これは鴨紅さんの父親に送るのを撮影しているんじゃないのか?
王道という言葉で騙されそうになったが、ここはしっかり鴨紅さんをフォローする。
「鴨紅さん困ってるじゃないか」
「えー? むしろちょっと喜んでる感じがするけど?」
「は、はうう……」
しかしせっかくフォローしているというのに、相変わらず美央が余計なことを言うので、鴨紅さんの様子が平行線のままでいる。
どうやら、カメラで撮影するだけではない、大変な役目を負ってしまったように思う。気の遠くなる感覚がした。