14.どきどき撮影会2~準備失敗?
「ともかく、だ。このカメラじゃ操作方法もわからないし腕が持たないから、俺が使い慣れてるこのデジカメでいいかな」
デジカメをメモ代わりとしていつも持ち歩いているのが功を奏した。せめてこれだけは受け入れてくれることを期待しながら、鴨紅さんに確認を取ってみる。
「あー、おにいちゃん、そうやって自分のメモリにるりちゃんのあーんな姿やこーんな姿を残しておくつもりなんでしょー」
答えを待つために鴨紅さんの動きだけを見ていた俺は、美央のその言葉で、鴨紅さんの肩や表情が固くなったのが見て取れた。
「いや、ないって。ないから。鴨紅さんも頼むからそんな顔しないでほしいんだけど」
「う、うう……そう、ですよね。すみません」
「うそだー、そうやって緊張をほぐして、ガードを甘くするって聞いたよ?」
「美央は俺をそんなに犯罪者に仕立てあげたいのか」
そもそもそれは何情報だよ。それに「あんな姿やこんな姿」って、何を指しているんだよ。そんな漠然としたイメージで動揺した俺も俺かもしれないが。
母親みたいなことを言い出した美央に文句の一つでも言ってやろうかと考えていると、その中で鴨紅さんはおびえるように左肩を引いて、俺から視線を外している。小刻みに震えているようにも見えた。
状況が状況でなければ、守ってあげたくなるようなかわいらしさを感じていただろう。今ではその原因がどうやら俺みたいなのだから洒落にならない。
「犯罪者だなんて、そんなこと思ってないよ? だっておにいちゃんがうまくやれば合意の上であんなことやこんなこと」
「頼むからやめてくれ」
鴨紅さんの目が、襲われそうなのを覚悟しているような、上目遣いで泣きそうなものになっているのが、信用されていないように思えて悲しい。
「そ、その……あの、私、お兄さんの言うこと、なるべく聞いて頑張りますから……お願い、します」
「いや、その目で言われると俺がすごく悪者みたいになってくるんだけど」
「はわわ、ごめんなさい! ちゃんと頑張りますから許してくださいっ」
ここまで来ると、鴨紅さんも美央に乗っかってわざとこの態度を取っているのではないかと思ってくる。
……たぶん本気での行動、だよな?
それはそれで、俺への警戒心があるのは本当だという意味になってしまうわけだが。
「あーあ、撮影前のトークは重要なのに失敗しちゃったねー」
「誰のせいだと思ってるんだ」
これもまた、美央はわかっててやっているのだろう。
しかし俺をからかうのはいいが、重要な「鴨紅さんの写真を撮って父親に送る」の方まで影響を受けさせてどうする。
きっと、美央はそこまで考えていない。
「じゃあ、早く撮影会、はじめよー! ほらほら、るりちゃんもいつまでもそんなに緊張してないで」
さっきまでの行動と、今言っていることの滅茶苦茶さが、俺の予想の信憑性をますます確かなものにしていった。