13.どきどき撮影会1~準備中
「じゃあ、おにいちゃんがカメラ持ってね? で、もちろん、るりちゃんがモデル。はい、これがカメラだよ?」
俺の返事を待たずに美央がどんどん話を進めていく。
手渡されたカメラは、一瞬体が沈む感覚を受けるほど重い……おそらく一眼レフと言われるものじゃないだろうか。
俺もデジタルカメラ程度は持っているが、さすがにもっとコンパクトで、こんなに本格的なものではない。
だって、だ。なにこのシャッターボタンだと思って押したら、何かを撃ちそうな気のするレンズ。
そして本体上部から角のように生えている、目をくらますためにあるんじゃないかと思ってしまうくらいの光が出そうな装置とか。
テレビでよく見る、いかにもプロカメラマンが使っていそうな重装備のラインアップだった。
「こ、これで撮れ、と……?」
その重さに筋肉が負けて手ぶれを起こしてしまいそうだ。いや、そもそも手ぶれ以前に構えられるかどうか。いつものデジカメに慣れきっている自分としては、未知の世界だった。
「うん、そうだよ?」
美央も、俺のこの絶望感をあっさりと無視して言ってくれる。
「そもそもこのカメラはなんなんだ。ずいぶん高そうに見えるんだが……」
とても高校生の持ち物とは思えない。
「あ、これはるりちゃんのお父さんのなんだよ? カメラが趣味なんだって。ね、るりちゃん?」
「あ、そ、そうなんです……その、私を撮るため、らしくて。実は、向けられると、ちょっと怖いんですけど……」
それはそうだろう。俺だってこんなのを向けられたら怖い。間違いなく撃たれる。いや本当に撃たれるわけがないのは分かっているが。
「でね、おにいちゃん。今、るりちゃんのお父さんは単身赴任中なんだって。だから写真を送って顔を見せてあげたら喜ぶんじゃないかな? ってるりちゃんに言ってみたんだよ」
「そんなに長い期間ではないらしいですけど……でも、毎日私には電話をかけてくるんです。だから、今は元気にしてますって、伝えるのもいい、かなって……」
私「には」と聞くと、鴨紅さんのお母さんの立場がないような気がするが、きっと存在感の薄い俺の父親と同じようなものなのだろう。
とにかくそれは気のせいとしておいて、それだけ父親が娘を大事にしているのが本人にも伝わっているいい結果なのだろう。カメラのことは結果が微妙になっているみたいだが、それもまた、受け入れられていているようでうらやましい。ちょっとは俺の母親との関係にも取り入れたいね。
それに、美央もたまにはいいことを言うらしい。いつも鴨紅さんをいじめているようにしか見えていないわけだが、こういう一面も一応はあるようだ。できればその気遣いを俺にも向けてほしい。
……こうやって考えると、俺が家族から孤立しているとしか思えないから困る。
とにかく、こういった事情を聞いたからには断る選択肢などないのだろう。美央はきっとこの流れになることまで予測して、あえて俺が事情を聞くまでカメラを渡すだけにとどめていたのだろう。
「なーに、おにいちゃん? もう断るなんてしないよね?」
美央のしてやったりな顔が憎らしかった。