12.部屋にご招待
「よ、ようこそです、お兄さん」
「い、いや、こちらこそおじゃまします……」
向かい合う鴨紅さんと俺に、
「むー、なんかお見合いみたい」
俺の横で、動じることなく余計な口を挟んでくる美央。
「こんなことになった原因は誰だ」
「あうあう……お兄ちゃんがぜひぜひ、るりちゃんの部屋に行きたいとか言うから、わたしを通して紹介してあげたのに、裏切ったあ……」
「……よくぞまあ、そんな出まかせが堂々と言えるな」
意味なく目の前にいる鴨紅さんをいたずらに動揺させるのもどうかと思う。
さらに余計なことを言い出した美央を止めるのと、鴨紅さんに誤解だと説明するのとで、来て早々、頭がパニックに陥りそうになる事態が起こってしまった。
そう、美央に連れてこられたのは鴨紅さんの家で。そして今は、鴨紅さんの部屋にいる。
まさかこんな形で女の子の部屋に入るような機会があるとは思いもしなかったので、それはもう、緊張する以外の何があるんだと問いたい。
これをもし口にしたら、美央が「わたしは女の子じゃないんだ……あうあう」とかいじけてしまいそうだが、妹とはさすがに話が違いすぎだろう。
……脳内とは言え、一瞬でも美央の口調を真似してしまった自分が気持ち悪い。
「むー……今、わたしの部屋と比べて、るりちゃんの方がよっぽど女の子らしいって思ったでしょ……」
考えていたことに当たらずとも遠からずという美央の言葉に、強く否定もできない。
どうやらどちらにしても、結局美央がいじけるのは一緒になってしまったようだ。
やむを得ない結果に俺は美央から視線をそらし、だからといってこの部屋主である鴨紅さんを直視することもできず……結果的に部屋を見回す形になった。
全体的に淡い青を基調としていて、シンプルながら、至る所に小物や勉強道具などが置いてあって、それもまるでそこが定位置であるかのようにきっちり片づいている。
ベッドの上には、想像通りというか、鴨紅さんらしく何かのキャラクターらしいぬいぐるみが枕の周りを囲むように置かれていた。
俺の部屋の様子とは……比べるまでもない。そもそも勉強道具が部屋に置かれているところからして、ありえないことなのだ。俺だったら部屋にいる時まで、そんなの見たくないね。
……さっきの親に散々浴びせられた冷たい視線が、美央から発せられたような気がした。
「それはともかく。いったい俺はどうすればいいんだ」
美央の視線から逃れようとしつつ、誤魔化せればなおありがたいなと思いながら、俺は美央と鴨紅さん、両方に問いかけるように聞いた。今の時点では、どちらに聞いていいものかどうかもわかりやしない。
……意味なく呼ばれただけのような気もしないわけでもないが。
しかし、その心配は無用だったらしく、ちゃんと目的はあったらしい。「誤魔化そうとしてるよね?」といぶかしげな視線を送ってくるのを俺はしっかり感じながら、美央のその言葉を聞いた。
「えへへ、今からおにいちゃんに写真を撮ってほしいんだー」