10.いらいら
「ねえねえ、遠慮しなくても見せてあげるよ?」
「この露出狂が」
鴨紅さんと別れ、これで話はひと段落したとほっとしていたのだが、まさか家に帰ってまでも話が続くとは思わなかった。
美央は俺の部屋に当たり前のように居座って、しつこく話を繰り返してくる。
これほど母親が買い物に出かけていてよかったと思うこともない。今まではあらぬ疑いをかけられてもかわすことができる感じだったが、こんな話のやりとりを聞かれたら、何やっていてもおかしくないと見られてしまう。
といっても、今までだって似たようなものかもしれないが。
「露出狂だなんて、ひどいよー。覚えていないんだったら、焼き付かせる。それがわたしのモットーなだけだよ?」
「そんなモットー、聞いたことがないしよろしくなさすぎる。というか今作っただろ」
どちらにしたって見せたがることが良いことなのか。まったくそうは思わないが。
美央は制服のまま着替えようともしていない。どれだけ時間が経っているかというと、同時に家に帰ってきて、一休みした後、俺は風呂に入って、部屋着に着替えた。この一連の動作をした小一時間といったところだ。
やはり、そんなに待機までしてやることではないのは明らかだ。時間で計る前の問題だというのは、最初から思っている通りなわけだが。
「おにいちゃんもかたくなだねー、素直になればいいのに」
「俺の対応は間違ってるのか……?」
「健全な男の子だったら間違ってると思うけどなー」
「目の前にして言ったらそれは健全じゃないと思うが」
「えー、そうかな? でもわたしは、おにいちゃんになら言われても全然OKだよ?」
こんなことを正論で話すことなど、なかなかない機会だろうが、だからといって気が進んでいるわけではない。そろそろ疲れてきた。
「わかった、わかったからさっさと終わらせてくれ」
結局、さっさと要求を飲んで事を終わらせるというのがここ最近の俺の行動パターンとして定着してきてしまったらしい。あまり喜ばしいことでないとわかってはいるが。
流されやすいのかな、俺。
「見たいって言ってくれなきゃやだ」
「断る」
しかしさすがにそこは即答しておいた。理由なんて言うまでもない。
「わかったよ……そんなに見たいなら見せてあげる。ほらっ」
もはや人の話を聞いていない美央が、自らたくしあげはじめる。
仕方なく視界に入れて、そして目に映ったのは、部活中に時々みかけるような姿だった。
「残念、アンダースコートでしたー」
「それがやりたかっただけか」
神経を使い果たして、力が抜けてがっくりときた。
「あうあう、いらいらしちゃだめだよ……期待してくれたのは嬉しいけど、また今度ね?」
もはや面倒で、反応を返すことさえ放棄したのだった。
「雄斗、また……」
しかし面倒なことは、一気に押し寄せるものらしい。
せっかくこの話題をスルーしようとしていたのに、このタイミングで母親が俺の部屋に入ってくるのは、もう運が悪いとしか思えなかった。