8.ひらひら
「だからね、るりちゃんはまだ切り札を出しちゃいけないんだよ。ギリギリまでに止めといて、ドキドキさせなきゃ」
しかし、口出ししようがしまいが、美央の話はまだまだ終わってくれないらしい。
というか、なんだこの会話は。まさか美央と鴨紅さんは、普段このようなことばかり話しているんだろうか。
「おにいちゃんはミニスカートが好きなんだもんね?」
「いつ誰がそんなこと言った」
俺はすかさず美央にツッコミを入れていた。
この勢いに飲まれようが、下手に口出しできなかろうが、否定すべきところは否定しなければ。
「前に遊園地で膝枕した時にスカートじゃなくて残念そうにしてたくせにー」
「だから勝手に俺の気持ちを断言するなよ……」
そもそも膝枕だって、俺が芝生に身を預けようとした時に美央が膝を差し込んできたのだ。スカートじゃないのが残念とか言ってないし、思ってもいない。美央が変な想像を膨らませて「今度はスカートにする」とか言っていたような気はするが。
「とにかく、見えそうで見えないってすごく効果的なんだよ? ほらほらるりちゃん、聞いてるだけじゃだめだよ、やってやって」
「え、ええっ!?」
口の中には何もないはずなのだが、俺は何かを吹き出しそうになった。
「そ、そんな……みおちゃーん……」
鴨紅さんはあまりにも変な展開に戸惑っているのか、普段の鴨紅さんの行動には見られない泣きそうな声と、美央に甘えるような口調で助けを求めている。
その間に美央は鴨紅さんの横に並んでいた。助けるのかと思いきや、さらに突き放している。
「甘えたってだめだめ! せっかく屋上なんだし、スカートひらひらさせるにはいいシチュエーションでしょ?」
「そ、それで屋上で待ち合わせにした、の……?」
まさか鴨紅さんまでもが、美央の策に陥れられた被害者の一人になってしまうとは。
声どころか、もう顔まで泣き出しそうになっていて、一層かわいそうなオーラが増している。今までの俺の経験から言っても、同情せざるを得なかった。
そこまで思っているのに何もしない俺もよっぽどひどいのかもしれないが。しかし助けようとしても、巻き添えになって共倒れになるのがオチだろう。
「だってこうでもしないと、るりちゃん何もしなさそ……きゃ!」
「ひゃ!?」
そうこう言い合っている間のことだった。帰ってきたかのようなさっきと同じ強さくらいの風が、俺たちのいる場所を通り抜けていく。
それはもう、あまりにも都合よく目の前の二人の足の間を上るかのように。
見ちゃいけない、と身体が反応するまでには時間が足りず……その結果、今度は至近距離で見るはめになってしまった。
しかし、あれだけギリギリがどうこう言っていたのに、美央は押さえてすらいない。あまりにも堂々としすぎていて、もはや逆に何が起こったのかわからなかった。
「ま、また……お兄さん、ごめんなさいっ! もう、みおちゃん、帰ろうよぉ……」
「むー、じゃあまた今度ね? で、おにいちゃん?」
「なんだ」
きっと、この流れで聞かれることは、もうまともなことではないのだろう。
聞くのも無駄な気がして、わざと素っ気なく振る舞ってみる。
もちろん、その予想を美央が裏切ってくれることもなく。
「わたしのも見て、嬉しかったり?」
「しない」
だから、誘導するような聞き方をしないでほしい。