ホワイトの正体
合流地点である繁華街の街に埋もれた安いホテルの屋上。そこが、ホワイトとの合流地点だった。
浮かんでいる満月の金色の光で、俺と勇気のぼんやりとした影が二人分落ちている。
その光を避けるように、暗闇に浮かび上がる白い不気味な仮面が浮かんだ。大人でも、一瞬恐怖を感じてしまうのに、勇気はそれを見つけた途端、走っていた。
それを見たホワイトも暗闇から飛び出して、手を広げていた。頼りない月明りだが、映し出された輪郭だけで、それが誰なのか理解するには十分だった。驚きはなかった。むしろやはりな、と思う。
月光に照らされたホワイトと小さい影が重なって、一つの大きな塊となっていた。月明りが、急に光を増したのか、影の黒がより濃く、二人の姿が反比例するように鮮明になっていく。二人の体は、小刻みに震えていた。
そんな二人を見ながら、自分の感情を持て余す。感動的な再会。そういう、キラキラしたような出来事なんてくそくらえだ。それなのに、勇気がかすみと重なって、息苦しくなってくる。現実を直視しろと、強迫観念に苛まれていく。
俺は、ずっと逃げいていたんだ。ルパンと名乗り、自分のような幼少期を他の子供に目に合わせないためにといって、スリルの奥へと、本当に助けなければならなかった存在を消していた。いつか、運よく見つけられたら、それでいい。何年後になるのかは、わからない。死ぬまで会うことはないかもしれないが、それなら、それでいい。そんな程度の決意とも言えないくらい、風が吹いたら、呆気なく消えて行ってしまうくらい、軽い思いだったように思う。
もしも、俺がホワイトのように、死に物狂いでかすみを助けようと、動いていれば。
あの時、もっと抵抗し、かすみを死んでも離さなかったら。もっと、あいつを探す努力をしていたら。助け出せていたら。あんな、廃人のような状態にはなっていなかったのかもしれない。
大きな竜巻が俺の心を巻き上げる。今、俺の前に広がっている世界は、殺伐とした後悔の風景しかなかった。
記憶の中でずっと生き続けていた図書館の少女。古びた図書館。皴一つない洋服。清々しい空気を纏う。
みんな、同じような場所に身を置いていて、見えている景色も、似たようなものだとに思っていた。だが、それは自惚れていたように思えた。だから、俺は、無言のまま二人から背を向ける。
「待って」
投げかけてくる声は、確かに少女の面影があった。どうして、今日まで気づかなかったのかと、背を向けたまま自嘲してしまいそうだ。それを大きなため息で誤魔化す。
「俺の仕事は、もう終わった。義理は果たしたはずだろう。ホワイト……いや、月島瑞穂」
振り返る前に告げて、今度こそ、後ろをみやる。
ゆっくりと外した仮面の下の素顔。彼女の少し吊り上がった瞳が丸々と見開かれていた。
いつも丁寧に施された化粧の大袈裟さは消えていて、きりっとした瞳とうっすら残っているそばかすがそこにある。その双眸はあの時と変わっていなかった。細めた瞳の表面は、輝やいているのに、その奥は相変わらず、ほの暗い。
「まさか、お前が図書館で会った、あの人だったとはな。あの時、俺たちはお互いの名前も、住んでいる場所も知らなかった。どうして俺にたどり着いた?」
「前も言ったでしょう? 六年前。あなたが仕事を失敗したときよ」
「あの宗教団体満月は、人身売買、薬、詐欺……ありとあらゆるものに手を出している。叩けば叩いた分以上の黒い場所だ。あの団体とあんたは、つながっていたということか?」
「まさか。私じゃなくて、父の方よ。裏の世界の援助があったから、父は政治家をやれているといっても過言じゃないほどに、太く濃く汚く繋がっている。不正献金や票集めに利用していただけでなく、自分にとって不利になる面倒な人間を消してもらうのも全部そこに依頼していた」
瑞穂の声は憎しみと悔しさで滲んでいた。世間では、父と娘は良好な関係で父は娘を溺愛し、娘は父を心から尊敬している有名だ。なのに、今目の前にある顔はそこには程遠い。おそらく、この顔が本当の二人の関係なのだろう。




