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9話 右手に剣を左手に魔術を

 その日は穏やかな陽気の、気持ちの良い朝だった。

 いつも通り起きて食堂へ向かうと両親はもう座っていて、弟のティゴスが呆れたような顔でこっちを見ていた。

 両親というか父様……いや、陛下は忙しく、三日に一度位しか一緒に朝食を取らないが、今のところほぼ100%の確率で俺は寝坊している。


 俺が悪いんじゃないんだよ、このふかふかの布団がね?

 うーん、人格が俺になる前のジークの話を聞いていて、何で寝坊なんかしてんだよと思っていたが、怒れないなこれは。


 朝食を済ませ、紅茶を飲んでいるとセバスチャンがそそ……と陛下の下へ向かって歩いて行った。

 何か問題だろうか?

 横目で見ているとティゴスがニコニコと笑っているのが見えた。


「兄さん、今日は何をするんですか?」

「んん、今日はいつも通りだよ。午前も午後も先生と剣術、魔術の勉強。夕方以降は図書館で勉強かな」

「確か新しい先生を連れてきたんでしたっけ、ごめんなさい。僕が先生を横取りしちゃったから……」


 謝ってくるが、その顔に浮かんでいるのは笑顔だ。

 本当に悪いと思っているんだろうか。

 あと事あるごとに皮肉を言ってくるけど、悪意というのは特に感じない。

 もしかしてうちの弟ナチュラル畜生ってやつなのでは?


「別にいいよ、俺には新しい先生がいるし」

「ふーん、どんな先生なんですか? セバスに聞いても教えてくれなくて、顔だけはちらっと見た事ありますけど」


 ティゴスには先生について教えてない。

 漆黒の騎士……なんて自慢をする気もないし、横からまた取られたくもないし。


「そのうちな、お前こそ今日はどうするんだ?」

「僕は……予定無いですよ」

「へえ、珍しいな」


 こいつはこいつで大体予定が塞がっていると思ったけど。


「たまにはね。あ、聞いてください。僕先生に褒められたんですよ。剣の筋が良いって、魔術も順調に上達してるって」

「ティゴスはダンスも上手いものね」


 俺らの話を聞いていたローラが頬に手を当てながら朗らかに笑う。

 むう、やはりティゴスは俺より優秀なようだ。

 だって俺一曲も踊れないし。

 ていうか教えてくれる先生がいないし時間もないからなぁ。


 これから時間が余ることがあったらセバスに探して貰おうか。

 ダンスの先生ならすぐに見つかるだろう。

 何て考えているとノック音がした。


「失礼します」

「失礼します……」


 扉が開くと、そこにはレッド・クラウディア侯爵とその後ろにミスティ・クラウディアが立っていた。

 あれ、何でミスティが?

 目を瞬かせていると父のハルトがゆっくりと立ち上がった。


「おお、これはクラウディア侯爵。よく来た」

「はは、愛娘が王宮を見たいと言っておりまして。して今日はどちらが案内を?」


 レッド公爵がちらっと俺とティゴスを交互に見る。

 これは……っ!

 ミスティをエスコートする絶好の機会。

 前回は駄目駄目だったし、今回こそは!


「ふむ……どうしようか」


 ハルトも俺らを見たところでティゴスと目が合った。


「兄さんは今日も先生と剣術、魔術の稽古があると先ほど聞きました! ですから私が案内をいたしましょう。そうでしょう兄さん?」

「うっ!」


 確かにそうだけど、言ったけど!

 もしやこいつ……ミスティが今日ここに来るのを知っていたのでは!?


「ごめんなさい兄さん、先生から昨日それとなく聞いていましたので……」


 ティゴスはボソッと呟いた。

 くそ、俺が逃した先生か!

 にしてもこいつマジでミスティの事気に入ってるじゃん。

 俺の婚約者候補なのに!


「であればティゴス殿下にお願いしましょう。ミスティ、それで良いな?」

「はい、お父様」


 ミスティは静々と礼をする。

 くそう、また駄目だった。

 もしかして俺と縁ないのかな……ってあれ?


 ミスティを見ると一瞬目が合った気がしたが、すぐに逸らされた。

 今俺の方見てた?

 一瞬ポジティブに考えたが、すぐに首を振る。


 いや待て、俺は特にプラスになるような事を何もしてないんだからそんなわけない。

 てことは単純にミスティ的にも俺とは嫌だったんだろうか。

 弟より優れてない兄でごめんね……。


「ジーク様」


 ティゴスがミスティをエスコートして行った後、セバスが俺の下へやってきた。


「何だ?」

「ジーク様への客人が来ております」

「客人?」


 俺を訪問してくる客人なんて見当もつかないけど。


「一応聞くけど誰?」

「デブトとガリムです」

「またかよ」


 あいつら休みの度にここへ来てない?


「王宮の第二庭園に案内しましたのでどうぞ行ってきてください」

「わかった」


 途中廊下でティゴスが顔を真っ赤にしながらミスティに話しかけてるのを横目に、俺は泣く泣く庭園に向かった。


「ようやく来ましたか!」

「ふん。俺も来てやりましたよ!」

「だそうです、殿下は愛されてますな」

「はは……」


 暑苦しい二人がすでに汗をかきながら待っていた。

 ティゴスとの来客差が酷い。


 暫く基本の型をしてから模擬訓練を始める事にした。


「ふん。では王子、勝負と行きましょうか」


 相手はガリムだ。

 お互い木刀を持ち、魔術ありの一本を決めた方が勝ち……というルール。

 審判はルーベルトが行う。


 俺とガリムはそれぞれ構えた。

 ガリムは木刀を両手に持ち、中段で構える……いわゆるオーソドックスなスタイル。

 対して俺は木刀を持った右手を前に、左手を後ろに隠した半身の状態で待つ。


「では、始め!」

「でやぁ!」


 コールがかかった直後、ガリムが打ち込んでくる。

 ガリムは高い身長を生かしてガンガン前へと押してくるタイプで、後ろで見ているパワータイプのデブト同様あまり小細工をしない。

 俺は冷静にガリムの打ち込んでくる剣を何とか受け流したり、弾いていく。


 片手と両手ではそもそも力に差があり弾くなんて無理そうなものだが、この体はやけに筋力が付きやすい為、最近は大分力も付いた。

 そのため、少し前は弾こうとして逆に俺の剣が軽く弾かれていたが、今では俺の片手持ちの剣でもぎりぎりで弾けるようになった。


 とはいえ、気を抜いたら途端にやられてしまうし、そもそも俺からは攻撃が出来ない。

 安易に突きを打ち込んでもガリムは簡単に払うのだ。

 小細工はしない癖に基本の小技自体はやたら上手い。

 その辺は中級剣士らしい。


 ただ、ガリム……まあデブトもそうだがこいつらは戦闘が長引くと徐々に脳筋ぶりを見せてくる。

 というのも最初は警戒してるくせに、だんだんと剣ばかりに集中して魔術への警戒を解いていく。

 だから仕掛ける。

 次にガリムが打ち込んでくるタイミングで魔力を込めた左手を引く。


『骸の袖引き』

「む!」


 ガリムの右腕が右にずれる。

 片腕を横にグンっと引かれたのだ。

 咄嗟に右手を剣から離すが遅い。


 俺は胸を突こうとする……が、ガリムはそれを見てすぐさま一歩後ろに下がる。

 躱されたが、俺はそのまま戻した右手の手首を左手で叩く。

 パン……。

 乾いた音と共にそれは発動する。


『悪魔の柏手』

「わっ!」


 ガリムの後ろで唐突に発生した衝撃波のせいで無理やり前に出される。

 そこを狙って俺は剣を振り下ろす。

 無抵抗のまま正面の投げ出されたガリムは、受け身も取れずに地面に手を着き、その隙だらけの額に簡単に木刀が当たった。

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