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8話 兵士Dの非番

 俺は今、王都騎士団に所属している。

 普段は訓練に遠征に巡回にと仕事をした後、非番時は飯を食い酒を飲み眠るという事ばかりしていた。

 恋人も欲しくない為、これで良かったのだが。

 本当にこんな何もない日常で良いのかと常々考えていた。


 同僚兼友人であるガリムに聞くと、お前は頭が悪いんだからそんな事考えていたくていいと言われた。

 ガリムは鼻を鳴らす癖のある奴で口はあまり良くない。

 が、付き合いが長いし俺も口の悪さはどっこいだから別にいい。


 そしてお前も俺と同じく騎士団内の頭の悪さだと下から数えた方が早いだろ……という突っ込みもしないでおく。

 ともかく、非番時のやる事である。


 その日も訓練が終わり、明日は非番。

 酒でも飲みながらだらだらしようかと思っていたのだが。

 王宮から騎士団に使いが来て、俺とガリムが騎士団長の部屋に呼ばれた。

 何でも、ジーク王子がリンドル公国に明日向かうため、護衛をして欲しいとの事だ。


 俺はガリムと顔を見合わせた。

 俺とガリムは騎士団内じゃ確かに頭は悪いが剣の腕は上の方だと自負している。

 よく組まされるしそれは文句が無い。

 リンドル公国は訓練で何度か行ったし場所も分かっているから構わない。

 問題はジーク王子だ。


 現在王家には王位継承権がある者が4人いる。

 ジーク王子はその中でも一番王位に近い王子だが、勉強も出来なければダンスなどの社交の教養も苦手で、剣も魔術もてんで使えない。

 弟のティゴス王子に全ての面で負けている駄目王子と評判だ。


「ふん。馬鹿王子のお守りをしろと?」


 ガリムがはっきりと言った。

 こいつ俺が言う前に口にしやがった。


「そうだ、騎士団の精鋭をよこしてくれとの事だ」


 精鋭か。

 そう言われたら断れないな。

 ちらっと隣を見るとガリムも満更でもない顔をしている。


「御者は別に用意してあるから、明日は護衛任務を頼む」

「「はい」」


 面倒だがこれも仕事と思うか。


 馬車に王子を乗せ、リンドル公国へ走った。

 うーん、ここまで来といてなんだが面倒くさいな。

 途中ガリムに悪態を付くと、ガリムも同じことを思っていたらしく、同調してくれた。

 やっぱり断って騎士団の奴らと酒を飲んでた方が良かったな。

 次は依頼が来ても二度とやらない。

 そんな事を考えていた。


 リンドル公国に付くと、ベルゼの街ではなく丘へ行くと言い出した。

 そんなところへ行って何になるんだよ。

 思いつつ、着いて行くと丘には沢山の墓があった。


 ベルゼの街の死者か。

 こんなに被害が出ているとは、騎士団が不在だったとはいえ、リンドル公爵は自国の都市に救援を送らなかったのか?

 何て考えているとジーク王子はそのまま墓の間を抜けていく。

 すると墓の前に誰かが座っているのが見えた。


 黒いフードに仮面を被っていて顔は分からないが、軽装備、ここの騎士団の者か?

 いや、顔を隠しているんだ。剝ぎ取った可能性すらある。

 墓荒らしならば……。

 ガリムと一瞬視線が合った直後、ジーク王子の前に出ようとしたが、王子に止められた。


「誰だ?」


 先に聞かれたが、その言葉は怪しい仮面を被っているお前に言いてえよ。


 話を聞いているとどうやら彼はベルゼの街の人間らしい。

 最初は敵意むき出しだったが王子の丁寧な哀悼の意に毒気が抜かれたようだ。

 うむ、毒気を抜かれたのは俺も同感だがな。

 教養なども皆無と聞いていたから、うむ。意外な一面があるものだ。


 それからベルゼの街に向かった。

 小型モンスターがわらわらいたが、俺らの相手ではない。

 ガリムと共にあっという間に倒していく。

 だが、それは現れた。


 ドンボスコだ。

 危険なモンスターで剣があまり通じない。

 魔術を使えない騎士団内では忌避すべきモンスターとして上位に名前が挙げられている。

 とりあえず戦うが、何とか負けはしない……が勝てる気もしない。

 剣がほとんど通らないのだ。


 ドンボスコの攻撃を受け流しながらちらっと横を見るとガリムと目が合う。

 多分俺達はそのうちスタミナが尽きて死ぬだろう。

 だが、後ろの王子は死なせるわけにはいかない。

 護衛を任された兵としての矜持だ。


 俺は王子に言った。

 逃げてくださいと。

 王子を守って死ぬならば本望だ。

 だがその王子は逃げないと言った、更に俺らが死んだら自分が死んでしまうから絶対に死ぬなと、厳命してきた。

 自分の命を盾に脅迫まがいの事をしてきたのだ。


 俺は騎士団に入って色んな仕事をやってきた。

 ある貴族の護衛をした時、強いモンスターを前にした際、貴族は足止めをしろと言い残し自分だけ逃げて行った。

 ある大商人の護衛をした時も、国の要人護衛を受けた時も。

 彼らは自分の命が大事なのだ。


 所詮俺らは平民中心の王都騎士団。

 貴族中心であるもう一つの騎士団と違って価値は紙切れみたいなもんだ。

 だから兵の命なんてどうでもいいと、代わりはいるから軽く捨てろと言ってくる。

 それなのにこの主は、むしろ自分の代わりこそいると、優秀な弟の名前を出しながら言ってくる。

 そのくせ俺らに死ぬなと言ってきた。

 下っ端の兵に死ぬな、命を大事にしろと言ってくるくせに、自分は代わりがいるから最悪死んでも良いなんて上の……それも最も次の王に近い者が言って良い言葉ではない。


 俺は隣で防いでいるガリムと共に笑った。

 きっとガリムも俺と同じことを考えただろう。


『この糞ガキをこのまま死なせるわけにはいかない』


 例え勝てる気がしなくても、王子を生かすために全力を尽くそうと。

 必死に戦っているとそのうち仮面の男がやってきた。

 そして協力してなんとかドンボスコを倒すことが出来た。


 ドンボスコを倒した魔術の威力、並の魔術師ではないと思ったが、何と彼はリンドル公国で最も有名な漆黒の騎士であるルーベルトであり、そんな彼を王子は先生として雇ってしまった。

 良いなぁ……。

 俺も、もっと強かったら、騎士団に休みが多かったら王子に教えたかった。

 まあ、休みの度に遊びには行っているが。


 さて……今日の休みはどうしようか。

 窓の外を見れば青空が広がっている。

 こんな日に昼間から酒を飲むのもなぁ……。


「おい、いるか?」


 扉のノック音と共にガリムが入ってきた。


「どうした?」

「ふん。相変わらず休みの日なのに暇そうにしているな」

「それはお前もだろ。それで、何か用か?」

「ふん、俺はこれから王宮に行くが、お前も行くか?」


 王宮……なるほど。


「しょうがねえな、付き合ってやるか」

「ふん、少しは強くなっていればいいが」

「どうだろうな。前は大分動きが良くなってたよな」

「ふん。教える先生が良いからだ。少々才能もあるようだがまだまだ」


「ふふ……」

「何だよ」

「いや」


 なんだかんだ言いながらお前も気に入ってるんじゃないか。


「じゃあ行くか」


 こいつも素直じゃない奴だ……なんて思いつつ、王宮へ向かった。

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