7話 新しく先生連れてきました
漆黒の騎士ルーベルト。
それはリンドル公国で勇名を馳せた騎士の名前だ。
闇魔法の使い手であり、剣にも精通している魔剣士。
では何故俺が彼の事を知っているのかというと、実はこいつ、ゲームに出てくる助っ人キャラなのだ。
登場フラグはベルゼの街壊滅。
仲間になる条件は、墓参りに行った時に会話。
そしてベルゼの街にいるモンスターの一掃。
だが、この条件がかなりきつい。
消滅条件が存在しており、ベルゼの街が壊滅してから一か月以内に仲間にしなければ彼は自責の念に駆られ、妹の墓の前で自殺してしまう。
更に言えばこのベルゼの街にいるモンスターだが、始めてすぐに起きるイベントのくせに、ステータスが高すぎて通常プレイではまず倒せない。
本来は主人公であるミスティが一人で来て戦うのだ、無理が過ぎる。
始まってすぐだから防御も本来は無理。
攻撃を躱しまくる運ゲーを勝たなければいけない上に、体に穴が開いていなければネックレスを手に入れる事は出来ず、それはそれでルーベルトは仲間にならない。
そのくせルーベルトはフラグを立てれば必ず来るが、乱入時間はランダムという鬼畜ぶり。
6時間後にやってきた時はコントローラーを投げそうになった。
本当に助っ人なんですかね……。
ちなみにルーベルトが最初に仮面を被っている理由だが。
彼はモンスター討伐に行っていたせいで最愛の妹を守れなかった事から、顔向け出来ないと仮面を被っている。
それは妹に送ったネックレスを墓前に埋めるまで続き、それが達成されない限り、仮面を外さないまま自殺するのだ。
ただ、そもそもこのイベントが発生するのは10年後のはずなんだけどね。
「やっと着いた」
馬車から降りようとするとデブトが外から扉を開けてくれた。
「ありがとう」
「いえ、最後の最後に怪我されたらたまらんですからね」
「ふん、足元にお気を付けください」
なんか二人とも俺に優しくない?
「過保護だなぁ、おい」
後ろでルーベルトが茶化してくると、ガリムとデブトがルーベルトを睨んだ。
「ここからは口を慎め、この方はこんなんでもカーラーン王国の第一王子だぞ」
「ふん。その通りだ。糞ガキに見えるが王子だぞ。漆黒の騎士殿とて無礼は許さんぞ」
「君たち本当に俺の事王子と思ってる?」
言葉に毒が塗られてるんだけど。
「第一王子とは偉いんだな。じゃあまずは敬語から始めるよ」
二人の注意にルーベルトは悪い悪いと手で合図した。
俺は降りてからうー……んと身体を伸ばす。
朝以来の王宮の空気だが、ベルゼの死臭と違って気持ちがいい。
やっぱ平和が良いな。
「じゃあ御者さん、ガリム。デブト。今日は助かったよ。ありがとう。休みの日なのにごめんね」
「別に構わないですよ」
「ふん。また何かあったら付き添いますからお声掛けを」
二人は丁寧な礼をしてから歩いて行った。
「あいつら口悪いけど良い奴ですね」
「最初はもっと文句たらたらでしたけど」
俺への評価が多少マシになったんだとしたら嬉しいな。
「じゃあ行きましょうか。案内します」
「はい、あと俺には敬語は要らないです。俺はもうあなたの臣下ですから」
それもそうか。
「わかった、じゃあルーベルト、俺に着いてきてくれ」
「はっ」
王宮の豪奢な廊下を歩いているとセバスチャンがやってきた。
「ジーク様、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
セバスチャンは恭しく礼をしてから隣に立つルーベルトを見た。
「そちらの方は?」
「そうそう、これから俺の剣術と魔術の先生をしてくれる」
「ルーベルトです、よろしくお願いします」
「リンドル公国のルーベルト? ……さようでしたか」
セバスチャンは一瞬驚いた顔をしたがすぐに表情が戻った。
「彼の衣食住の用意はお任せください」
「うん、任せた」
あれからルーベルトを師匠として剣と魔術の授業が始まった。
とりあえず午前中は剣術、午後は魔術の練習を行っているが、ルーベルトの授業は独特だった。
それを説明していこうと思う。
まず剣術編。
剣術について、ルーベルトは基本の型を教えつつ、とにかく筋力トレーニングをさせた。
目標は片手で剣を振り回せるようにという事だった。
剣は両手で持ち、中段で構えるのが普通な為、珍しいと思いつつもとにかく筋力トレーニングをした。
8歳という事もあり、筋力トレーニングなんてしたところで大して変わらないだろう……という俺の考えとは反して、非常に日を追うごとに俺の筋力はみるみる増していった。
うーん、これもゲームのキャラ補正なのか?
何て思いながら気づけば片手で剣を振り回せるようになっていた。
そして教えられたのは左手をフリーにした状態での相手の剣のあしらい方と、刺突中心の剣技である。
理由を聞くと返ってきたのは実戦ではこれが役に立つから……という事である。
前世の日本の剣道において刺突……突きは非常に危険であり、中学でも禁止されているほどである。
確かに避けられたら身体が開き隙だらけというのもあるが、それ以上に喉以外に有効でないからという理由があり、更には有効なのに目上の人に対してするのは失礼とか言う謎ルールすら存在する。
だが、ここは日本ではなく、カーラーン王国だ。
突きは別に喉だけでなく、身体のどこでも良いし実際に戦うとなった時に失礼だから打たないとか、危険だから打たないなんて甘い事を考えていられる状況ではない。
――と考えればルーベルトの刺突中心の剣術訓練は実戦向きと言えるだろう。
あと、これは片手で戦う為というのもある。
そもそもどうして片手で戦うのか。
それに関しては魔術の時に説明しよう。
魔術編
ルーベルトが教えるのは闇魔術だ。
闇魔術といえば呪いとか呪術的な事を考えていたが、半分は合っているらしい。
実際に剣へ闇属性を孕んだ自分の血を垂らす事で、武器への魔力付与を強化したりも出来る。
ドンボスコに対して放ったものはそれだったそうだが。
ともかく闇魔術。
これが剣士にとっては非常に厄介だ。
基本的には左手をフリーにした状態で、片手で放つのだが。
足止めやら体勢を崩したり、相手の動きを制限するようなデバフを付けたり、はたまた闇の魔力を全力で出して相手の体を貫くなんてことも出来たりする。
例えば『躯の袖引き』。
これは相手の近くに黒い手が出現し、相手を強引に引っ張る。
引っ張られた相手は間違いなく体勢を崩すし、それを近距離でやられたら溜まったもんじゃない。
続けて『悪魔の柏手』。
これは左手で自分の右手を軽く叩くことで相手の付近で衝撃波が発生し、相手を衝撃で吹っ飛ばすものだ。
これもまたなかなか強い。
他にも体から出した魔力を闇に染めた状態で前面に出すことで、闇の幕を作り魔術攻撃をシャットアウト出来たりも出来た。
ただ他にも沢山闇魔術はあるのだが、闇魔術は炎や水とかとは違い、高威力という面では劣るかもしれない。
例えば炎や水みたいに大規模な敵にダメージを与えたりといったのは難しい。
ただし、速射性と汎用性がある為、剣と非常に相性が良く、合わせるととても強いものとなる。
ちなみに、闇魔術は本人の資質が無ければ使えないそうだが、俺は闇の資質が非常に高いらしい。
ゲームだとジークのステータスは見れないまま退場したため分からなかったが、どうやらジークは闇属性魔術の使い手になれる逸材だったようだ。
ともかく、あれから俺は剣に魔術に夜は本を持ち込んで勉強にと勤しみ始めた。