2話 いきなりパーティとか言われても……
「嘘だろ……」
暫く呆然としていたが、改めて鏡越しに自分の体を触る。
身体は小さくまだまだ細い。
赤い髪と目、幼いながらに整った顔。
間違いなく見覚えがある顔。
やはりプリラバの第一王子ジークだ。
「俺が……ジーク?」
はは……と乾いた笑いが出た。
ジークはプリラバの設定ではカーラーン王家の第一王子として扱われている。
優れた容姿に明晰な頭脳、剣の腕前も一流で魔術も使いこなす万能の才を持つ王子だ。
成功が約束されている王子……であるのが乙女ゲーの王道なのだが。
このプリラバは主人公がそもそも違う。
普通は身分の低い主人公は、美しい容姿でキレイな心を持っていながらも、出自の悪さから自分より身分の高い王子の婚約者の貴族令嬢……いわゆる悪役令嬢と呼ばれる人から嫌がらせを受けながらも、誹謗中傷をひっくり返し王子とハッピーエンドを迎える……のが定石だ。
しかし、このゲームの製作会社は既存のそれらの恋愛ゲームに異を唱え、子供の頃から一途に王子を思い続けている悪役令嬢こそ救われるべきだというファンの声にこたえる形で、何と主人公を悪役令嬢その人にして彼女がハッピーエンドになるストーリーを作ったのである。
つまり、物語は唐突に婚約破棄した王子を糾弾するところから始まり、悪役令嬢役だった主人公は、その後に出会う数々のイケメン王子やら騎士やらと恋をしていくゲームなのだ。
要するにその婚約破棄する勘違い王子の俺がかませ犬なのである。
ちなみにその一件の後、俺は悲惨な目に遭うというバッドエンド一択だ。
本当何でジーク王子はそんな事したんだろうな。
実際悪役令嬢役の主人公、ミスティ・クラウディア推しだったからこそ俺はこのゲームにハマったという経緯すらある。
なのに婚約破棄する側とか、ないわー。
「あー……」
ベッドの上をゴロゴロ転がりながら声が出る。
というか俺がジーク王子って事だと、このままだとバットエンド確定だ。
最後はどうなったかな、確か微妙に打ち首だったり僻地に左遷だったり磔だったりと、どうしてか処刑にバリエーションがあるんだよな。
まるで勘違い王子に恨みがあるみたいに。
どうしよう、晒し首エンドとか嫌なんだが、嫌すぎるんだが。
依然ゴロゴロとベッドで転がっていると、ノックの音が聞こえた。
「失礼します、ジーク様。もうお食事の用意が出来ております。急ぎ支度を……」
「わ、分かった!」
ベッドから起き上がり扉を開けると白いお髭が似合っている初老の執事がかしこまっていた。
確か執事のセバスチャンだったか。
セバスチャンは、俺の姿を見るなり驚いたような顔をした。
「ジーク様、その姿は流石に……」
「え?」
言われて自分の姿を見れば、完全にパジャマ姿である。
「お着替えはそちらに用意されているかと……」
「あ、ああ。すまない」
「……いえ」
慌てて部屋に戻り机の上に置かれた服に着替えた。
蝶ネクタイなんて初めて着けたな。
着心地の悪さを感じつつも案内された部屋に向かった。
部屋の中は非常に洗練されている。
長い机に白いテーブルクロス、埃一つ落ちていない。
太い円柱の柱、赤い絨毯。
高い天井を見ればステンドグラスが嵌め込まれた窓。
壁際にはメイドが等間隔で静々と立っている。
ブルジョワ! ファンタジーの世界はここにあった。
「遅かったな……」
奥に座っているのはジークの父でこのカーラーン王国の王様。
ハルト・カーラーン。
「全く、あなたはいつも寝坊しますね」
優しく言うのは母親のローラ・カーラーン。
そして。
「兄さんだから仕方ないよ」
冷ややかに言うのは、手前に座っている利発そうなティゴス・カーラーン……ってあれ?
「ティゴス、どうして?」
「…………?」
「いいから座りなさい」
「は、はい。すみません」
頭に疑問符を浮かべながら俺は席に着いた。
豪華な料理を食べながら内心首を傾げる。
ティゴスは俺の弟だが確か8つは下のはずだ。
ティゴスはゲームに10歳で出てくる隠し攻略キャラで、ショタルートとも呼ばれていたはず。
だが、どう見ても自分と近い年齢に見える。
俺が自分の部屋の鏡で見た自分は、よくて8歳とかその位だと思うんだけど。
おかしいな。
「ジーク、朝から騒々しかったが何かあったのか?」
考えているとハルトに話しかけられた。
「朝ですか?」
「部屋から叫び声が聞こえたそうだが」
「悪い夢でも見たのかしら?」
ローラが優しく微笑みながら聞いてくる。
悪い夢は確かに見てた。
まあ、現在進行形でなんだけどね!
「ねえ兄さん、今夜の社交パーティ楽しみだね」
ティゴスがぽそぽそと話しかけてきた。
「ああ、社交……え、社交パーティあるの!?」
初耳なんだけど!
「どうして驚いているのさ、まあ兄さんはダンスの練習をサボってるから踊れないもんね。僕はもう踊れるけど」
え、ダンス? それも初耳、ていうかいきなり言われても無理なんだけど。
「やれやれ、7歳のティゴスがダンスを踊れるのに8歳のジークはまだ踊れないのか。レッスンを逃げてばかりいるからだろう。それに勉強も剣術もサボってやってないそうじゃないか。セバス、注意はしているのか?」
「申し訳ありません」
「良いのよ、ジークにはジークのペースがあるのですから……でも」
ローラが頬に手を添える。
「このままじゃ相手が見つからないかもしれないわね」
困ったように笑った。
☆☆☆
夜。
王宮内で王都中の貴族を招いた社交パーティが開かれた。
飾り付けられた広間には沢山の人、料理の乗った机、華やかな音楽と貴族達の笑い声が響いている。
「兄さん、凄く美味しいね」
「ああ」
王宮の料理人が腕によりをかけて作った特別料理の数々は、普段食べている料理より一段と美味しく感じた。
「お二人とも食事をお楽しみの所、失礼します。お二人を陛下がお呼びです」
「父様が?」
セバスチャンに連れられて行くと両親が楽しそうに話していた。
相手はどこかの貴族のようだ。
服を見る限りだと結構偉いように見える。
ていうかこの顔どっかで見たことあるような気が……。
「おお、来たか。では侯爵」
「はい、初めましてジーク様、ティゴス様。私はレッド・クラウディアと申します」
恭しく礼をする姿はとても上品だ。
ん? クラウディア?
「さあ、挨拶を」
大柄な男の後ろからその子は現れた。
「初めまして、ミスティ・クラウディアと申します」
天使が現れた。
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