その2
名古屋クラシック学園は共学で偏差値も低くはなかった。
クラス数は少なく各学年2クラスの小さな学園であった。
理事長は創立者の孫娘である斎藤貴子で生粋の名古屋っ子であった。
一颯は学園の来客用の駐車場に車を止めると警備室へと足を向けた。
そして、警備員に
「さきほど連絡しておいた一色一颯と言います」
三河亜津志先生との面会をしたいのですが
と告げた。
警備員の田中達夫は一瞬一颯の頭の上の鳥に目を向けたものの直ぐに頷くと
「連絡を受けています」
雑誌の取材ですね
と入場許可書を渡し
「応接室で三河先生が待っています」
と告げた。
一颯は入場許可書を手に
「色々ありがとうございます」
と答え、田中達夫の後に付いて足を進めた。
私立の高校の応接室はそれなりに立派で部屋の中央にテーブルがありソファがあった。
棚には学園の運動部などが賞をとったトロフィーや賞状が飾られ、その数は決して少ないものではなかった。
その手前側のソファの横に立って三河亜津志が待っていたのである。
三十代半ばのひょろりとしたインドア派の眼鏡をかけた男性であった。
「初めまして、三河亜津志です」
そう言って頭を下げた。
警備員は「ではごゆっくり」と戸を閉めて立ち去った。
一颯は軽く会釈しながら
「こちらこそ、今日は取材に応じていただきありがとうございます」
と言い、業とらしく携帯を手にすると
「先ずお写真を撮らせてもらっていいですか?」
リラックスして座ってください
と告げた。
亜津志は緊張しつつ
「は、はい」
と答え、きっちりとソファに座り一颯の携帯の方に視線を向けた。
一颯は2,3回写真を撮り、奥のソファに座ると
「取材前にいろいろと調べさせていただいたのですが」
と前置きをして
「バイオエネルギーの博士号をとって論文も出されていたようですが」
そちらの研究所などには行かれずに何故高校の理科の教師に?
と聞いた。
亜津志は少し視線を動かし
「それは」
というと視線を伏せながら
「ここの理事長と知り合いでお誘いいただいたのが切っ掛けです」
と返した。
「彼女は名古屋から世界に羽ばたける人材をと高い理念を持っていて」
私だけではなく多くの一分野に長けた先生を招いている
「その一人に選んでもらったことは感謝しています」
一颯は「なるほど」と呟きチラリと頭の上のピーを見た。
ピーはパタパタと羽ばたくとぴょこんと亜津志の頭の上に止まり、亜津志がびっくりして
「え!?あ…鳥が!」
と叫ぶと同時に舞い上がって一颯の頭の上に戻った。
一颯は慌てて
「いや、申し訳ない」
と言い
「偶に鳥と戯れる絵とかも撮るので」
と困ったように笑った。
亜津志は戸惑いつつ苦笑いを零すと
「は、はあ…そういうものなのですか」
と告げた。
真っ赤な嘘である。
ピーは何時ものように
「スキスキスキスキ、イブキ、ワトン」
とリズミカルに鳴いた。
一颯は一瞬「なるほど」と理解しつつ
「だが、何故俺の名前だ?」
と突っ込みを入れた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。