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Reshot  作者: 如月いさみ


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57/61

その10 前半

「それでは実家へ帰らせていただきます」


坂路理沙はそう言うと手を軽く上げて

「良いお年を~」

と言って、12月29日山陰の実家へと帰って行った。


七尾友晴は一色一颯が山陰の両親の元へ帰らないと聞くと

「では、私もこちらに残ります」

と告げた。

「一颯さまのお傍でお守りするように仰せつかっておりますから」


一颯は腕を組むと

「いや、年末年始だ」

家に帰れ

「親が寂しいだろ」

と告げた。

が、友晴はにこやかに笑むと

「親のみならず親族は従家の人間ですから」

とさっぱりと答えた。


一颯はふぅと息を吐き出すと

「わかった」

と答え

「ピーを散歩に連れて行く」

と告げた。


ピーは籠の中で背を向けた。

「サムイ、サムイ」


一颯は籠を覗き込み

「じゃあ、散歩無しでいいか?」

と聞いた。


ピーは振り返ると

「イブキ、ワトン」

ワトンワトン

と羽をはためかせた。


一颯は頷くと

「わかった」

じゃあ、来年な

と手を振った。


ピーはハッとすると

「ラネン、イツ」

ラネン、アシタ

とポンポンと跳ねた。


一颯は冷静に

「俺が出社するのは来年の4日だから」

一週間後だ

「餌も水も自動で出るようにしているから安心しろ」

と背を向けた。


ピーは意味を理解すると

「ホムズ、ヒトリ」

ノー

と鳴いた。


友晴はこの一人と一匹を見て

「…良い話し相手なのでしょう」

この二人

と心で突っ込んだ。


そして、鞄を持つと帰宅準備をしているおこめ探偵事務所の社長である尾米正を見た。

尾米正は苦笑しつつ鞄を手に

「では、来年は楽な仕事ばかりになるようにということで」

おつかれさん

と声をかけた。


一颯はあっさり

「いやいや、探偵業俺に丸投げだろ」

けどしゃちょーのお陰で仕事出来てるからな

「じゃあ、来年」

と手をあげて友晴と共にピーの籠を持って事務所を後にした。


しかし、新年早々大きな問題が流れ込んでくるとはこの時だれも予測していなかったのである。


リショット


山陰に戻った坂路理沙は自宅の和室で正座し目を見開いていた。

「はい?」


母親の沙奈は三つ折りされた見合い写真と釣書を置いて

「益田さまには年始のご挨拶の時にお話しようと思っております」

ただ理沙

「貴女が名古屋へ行って10年です」

もう30歳も超えてしまいました

とさめざめと泣いた。

「このままでは…幾ら本家のご指示と言えど」


理沙は心で

「あー、行き遅れってことだよねー」

お母様わかっております

と乾いた笑いを零した。


しかし、理沙としてはこのまま名古屋で…おこめ探偵事務所で勤めていたいと思っているのだ。


沙奈は引き攣った笑みを浮かべる娘を見て

「理沙、貴女はどうなんですか?」

と聞いた。


理沙は「私は」というと

「このまま名古屋で仕事をしていたいと思っているんですけど」

と少し引き気味に答えた。

「坂路家は私一人なので…結婚して跡取りが必要なのはわかっているんですけど」


沙奈はすっと娘を見据え

「その通りです」

と言い

「年始のご挨拶の時に益田家当主の達雄さまにご承諾をいただき…新任できる者の選出を願います」

貴女にはこのまま家にいて遅まきながら花嫁修業をしながら見合いをしていただきます!

と命令した。


理沙は「えー」と声を零すと

「…むむ」

と呟き

「私、今から名古屋に帰ります」

と立ち上がった。


沙奈も立ち上がると

「許しません!」

と向かい合った。

「それとも見合いをしたくないほど」

名古屋に何かあるのですか?


理沙は「それは」と考え

「仕事が楽しいからです」

と告げた。


沙奈は笑顔で

「では結婚しても働けば宜しい」

そこは反対いたしません

と言い

「これで問題解決ですね」

と座った。


理沙は「えー、流石我が母!そのさっぱり感!」と心で叫び

「でもちがーう」

お母さま!

と突っ込んだ。

「私、あの探偵事務所で働きたいんです!」


沙奈はそれにお茶をスーと飲むと

「何故です?」

働くことに反対はしていませんよ?

「あそこに拘る理由は何なのです?」

無ければ坂路家の会社で働き結婚なさい

とさっぱり告げた。

「頭を冷やして年始ご挨拶用の着物を合わせてきなさい」

玉子が待っております


理沙はムムッと考え、顔をしかめ

「…取り敢えず着物を合わせてきます!」

と踵を返すと部屋を出た。


沙奈は娘が部屋を去ると

「…まったく我が娘ながら他のご息女のように格式が無い」

とトホホと溜息を零した。

「しかし思い人が主家の方では相手にされるわけがありませんし」

やはり益田さまにお願いしてあの子には坂路家の跡取りを産むことに専念してもらいましょう

「年始に話を通すつもりでしたが…ここはあの子の気が変わって帰る行動をとる前に手を打たねば」


沙奈は決意した日が吉日と言わんばかりに立ち上がって行動に出た。


理沙は母親とのやり取りを思い出しながら

「だって、何処でも良いわけじゃないんだから」

しょうがないわよねー

と独り言をつぶやいて廊下をどすどすと歩いていた。


日本家屋の平屋作りの坂路家の中でも少し大きな広間で戸森玉子が理沙を待っており部屋に彼女が入ってくると

「お久しぶりでございます」

お嬢様

と笑顔を見せた。


理沙は微笑むと

「玉子さん、本当にお久しぶり」

考えれば年末年始くらいしか帰ってないわね

「ごめんなさいね」

と告げた。


玉子は笑みを見せると

「いえいえ、お嬢様が名古屋で楽しく過ごされているのがそのお顔でわかるので嬉しゅうございます」

幼い頃から仕えさせていただいておりますので

「お恐れながら娘のように感じております」

と答えた。


理沙は玉子を抱き締めると

「私も!」

嬉しいわ

と告げた。


玉子は抱き留めながら

「さぁさぁ、お嬢さま」

年始ご挨拶用のお着物を合わせましょう

と呼びかけた。


理沙は頷き鏡の前に立った。


玉子は着物を着せながら

「奥様ではないのですが」

私も早くお嬢様の花嫁姿を見たいと思っております

と言い

「名古屋にこだわる理由がおありなのですか?」

と聞いた。


それは昔から彼女が口にする言葉であった。

『お嬢さまがそれをされるのに理由がおありなのですか?』


そして、理由を告げると力になってくれているのだ。


理沙はう~んと考えながら

「心地いいからかなぁ」

と告げた。

「一色君…んー一颯さまって言わないとだよね」

主家の流れの人なんだけど

「凄く自然にいられるのよね」

ぶっきらぼうだけど頼りがいがあって隣に座って見る景色がいいの

「傍にいたいって思うんだよねー」


玉子は理沙の微笑む顔を見て

「お好きなのでございますね」

と告げた。


理沙は顔を真っ赤にして驚いて玉子を見た。

「わ、わた、私が!?」

だめだめー

「だって主家の流れだよー」

私は従家の流れだもの

「でも今の仕事を続けていたらちゃんと側にいて一緒の景色を見られるんだよねー」


玉子は笑みを深め

「良い恋をしておられるのですね」

玉子は嬉しく思いますよ

と告げた。


理沙は顔を真っ赤にしながら

「かも、しれないかな」

うん

「良い恋してると思う」

と笑顔を見せた。


しかし、その日の夜。

坂路家に思わぬ来客がやってきたのである。


坂路家は従家の流れの家系だが一般的な家に比べるとそれなりの資産家でもあった。

庭のある日本家屋。

そして、戸森玉子を始めとした家政婦や執事などもいる。

が、主家の例え分家であっても流れを組む者とは大きく一線を画していた。


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