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Reshot  作者: 如月いさみ


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その9 後半

一颯は腕を組むと

「そう言う意味では反対だな」

と言い

「隣の家の人間の話では長柄家の方は夫が最近両親の遺産を手に入れたらしい」

ただ元々夫婦仲は良くなくて

「喧嘩する声を聞いていたそうだ」

と告げた。

「妻の圭子の話では渋っていた夫が漸く離婚を決意してくれたようなことを言っていた」


伽羅はそれを聞き

「そうなんだー」

折角ちゃんと別れられるっていうのに残念だよね

と呟いた。


同室にいた大翔は

「そうか?」

夫婦仲が悪かったのなら夫はいなくなって離婚前だから夫の遺産も手に入ってだろ?

「言葉は悪いが彼女にとっては両得だろ?」

と告げた。


一颯と春彦は視線を合わせた。


一颯は春彦を見ると

「今夜は伏流庵に泊まらせてもらう」

と告げた。

「あー、宿泊費は経費で落ちるからな」


ビシッと告げた。


春彦は苦笑すると

「わかった」

仕事は仕事だな

と言い

「代わりに若月の方の詳細な情報の収集をしておく」

それから

「明日の夜はこっちで泊ってくれ」

みんなを呼んでおく

と告げた。


一颯は笑顔で

「ああ、明日は言葉に甘える」

と言い

「じゃあ、頼む」

行ってくる

と告げた。


春彦は頷いて

「予約は入れておく」

と一颯と友晴を送り出した。


一颯は友晴と共に島津家の車で伏流庵へと向かった。


春彦はそれを見送ると後ろで控えていた武藤譲を見た。

「例の件の被疑者である若月功平のここ一か月の行動と周辺の聞き込みを頼む」

と告げた。

「特に出張時の情報を中心に」


譲は頭を下げると

「かしこまりました」

と携帯を手にすると部下に指示を出した。


春彦は部屋に戻りながら

「問題は…若月功平と長柄圭子に接点があるかどうかだな」

と呟いた。


伏流庵についた一颯は丁寧な出迎えを受け、恐らく春彦から聞いていたのだろう12月16日に長柄圭子と友人たちの部屋の仲居が彼らを部屋へと案内した。


一颯と友晴は部屋に入り早速彼女に詳細を聞いた。

友晴は携帯で動画を撮り一颯はメモを取った。


仲居は最初に

「到着されたのは12月16日の夕方5時でした」

と告げた。

「お食事は6時30分にお二人分部屋食でご用意させていただきました」

そして

「8時半にお友達の一人を迎えに行くと言って出かけられて9時過ぎ頃にご一緒に戻って来られました」

遅れて到着された方の分はその後に


一颯は頷いて

「なるほどな」

と言い

「ところでこの近くで転落事故があったらしいが」

どの辺りか案内を頼んで良いか?

と聞いた。


仲居は「ああ」というと立ち上がって

「歩いて10分程のところですから」

と一颯と友晴を案内した。


伏流庵は車で来る客が多く散策用の道として緑が多く夜にもなれば暗い感じになっている。

今は昼過ぎなので意外と緑が鮮やかで涼し気な心地よい散策道であった。


仲居は歩きながら

「まあ、昼は気持ちよいですが夜は薄暗いので何か用が無いとお部屋でのんびりとされる方が多いですね」

福田様も送迎すると申し出たのですが長柄様がお二人でお話したいことがあるのでとお断りになられて

「あの転落事件に巻き込まれなくて良かったです」

と告げた。


一颯は立ち止まって

「そうか」

と言い

「何か気になることとかは?」

と聞いた。


仲居は少し考えて

「いえ、これは春彦様から出来る限りご協力するようにとご指示をいただいたので…本来ならば警察であってもお客様の会話などはお話いたしませんが」

と言い難そうに

「その…ご会食の時に小耳に挟んだ話なのですが」

長柄さまという方を慰める会だったそうなのです

と告げた。


一颯はそれに

「ん?」

と仲居を見た。


仲居は息を吐き出し

「ご親友の方が長柄さまが旦那さまから離婚を切り出されて離婚届を無理やり書かされたというお話をされておりました」

と告げた。


一颯と友晴は顔を見合わせた。


長柄圭子の話では『夫が離婚を拒んでいたが漸く離婚できる』という話であった。

だがもしも、仲居が言っていたことが本当なら動機としては十二分である。

離婚されてしまうと遺産は手に入らない。

内容によっては殆ど何も手に入らないまま家を出ることにもなる。


一颯は仲居に

「その親友の連絡先は?」

と聞いた。


仲居は頷いて

「顧客台帳に残っております」

と答えた。


一颯はその後に台帳を見て親友の福田加奈子と江坂裕子に電話を入れて宿泊当日の話を聞いたのである。


福田加奈子に関しては『何故一人だけ遅れて来たのか』『何故送迎を断り何処で長柄圭子と落ち合ったのか』であった。


彼女はそれにあっさりと

「仕事があって日にちを変えようと言ったんだけど…圭子がその日に予約してしまったっていうので仕方なくです」

なので12月16日は午後5時まで仕事をしてそれからすぐに新幹線に乗って九州まで出てそこから列車に乗って

「近くにバス停があるって聞いたから乗るつもりだったんだけど時間が遅かったので結局そのバス停までタクシーで」

と告げた。


一颯はそれに

「宿の送迎は利用されなかったのですか?」

と聞いた。


彼女は困ったように

「それが圭子の話では急に送迎はお願いできなかったみたいらしくて」

まあ到着が9時頃になるってわかっていたから終バス逃すかなぁとおもっていたから

「しょうがないと思って」

と告げた。

「到着したら圭子が待っていてくれたから助かったわ」

薄暗いしバス停まで向かいに行くからって言ってくれなかったらタクシーでそのまま行ってたけど

「時計を見たら9時だったから私も圭子もアリバイがあるわ」


一颯は笑みを浮かべて

「ご協力ありがとうございます」

と答えて携帯を切った。


その後、江坂裕子にも電話を入れて彼女にはその日集まった理由と誰の提案かを聞いた。

彼女はそれに

「聞いたんですか?そうなんですよね。圭子が離婚を決意したからもう自由に旅行とか行けなくなるって言ったのでだったら今回失婚旅行して落ち着いたらまた旅行しようって話で」

何時も私が計画立てるんだけど今回は圭子が泊まりたい宿があるからって計画を立ててくれたんだけどね

「親の遺産が入るまでは圭子にも働け働けで遺産が入った途端離婚って…こう言っては何だけど絶対に不倫してたと思うのよね」

亡くなった人を悪く言いたくはないけど

と告げた。


一颯は「そうですか」と言い

「ありがとうございます」

と携帯を切った。


つまり12月16日の旅行は長柄圭子が計画したモノだったのである。

その時に『偶然』別れる予定の夫が殺され遺産が手に入った。


一颯は息を吐き出し

「警察が疑うのは分かる」

と呟いた。


友晴も隣で聞きながら

「確かにかなり疑わしいですが…アリバイは完璧ですし」

協力者となる友人のアリバイも完璧です

と答えた。


一颯は頷いて

「そうだな」

と言い

「だが彼女は敢えて俺達に『自分が別れたがっているのに夫が承諾しない』という嘘をついたのかも気になる」

と告げた。


友晴はそれに

「見栄、というのもあるかもしれません」

それにその話をすると我々も彼女を疑うかもしれないと思ったのかもしれません

と告げた。


一颯は彼を見て

「確かに正論だな」

と言い

「どちらにしても」

と立ち上がった。

「夕食前に友人と落ち合ったというバス停へ行くか」


友晴は頷いた。


一颯はフロントに声をかけて

「一番近いバス停というのは?」

と聞いた。


フロントは地図を出して

「ここです」

歩いて5分くらいですね

と告げた。


一颯は地図を貰って友晴と実際に歩いた。

冬の夕暮れは早く陽はもう落ち始めていた。


薄闇の中を友晴が時計を測りながら二人で歩いた。

友晴はバス停の前に立ち

「16時10分に出て今が16時15分」

確かに5分ですね

と告げた。


一颯は「そうか」と言い地図を見て

「帰りは違うルートで帰る」

というと驚く友晴を他所に歩き始めた。


バス停から少し先を行って脇道に入り木々の茂る道を少し進むと橋に出た。

転落事件のあった橋である。


一颯は友晴に

「時間は?」

と聞いた。


友晴は時計を見て

「5分程ですね」

と告げた。


一颯は頷いて

「じゃあ、宿に戻ろうか」

と先程仲居に案内された道を歩き出した。


時間はやはり10分。


一颯はそれを考え

「長柄圭子は8時半に出た」

宿から橋までは10分

「そこで若月紀美世と落ち合い事件を起こし歩いてバス停に行く」

バス停までは5分だ

「十分間に合う時間だ」

そして友人の福田加奈子と9時に落ち合い宿に戻る

と宿の前に立った。


一颯は息を吐き出し

「取り敢えず飯にするか」

と宿の中へと入った。


どちらにしても彼女には鉄壁のアリバイがあり、知り合いの友人も同じ場所にいて共犯者もいない。

そう言うことなのだ。


一颯と友晴は豪華な会席料理を食べてその日をゆっくり過ごすと、翌日の朝に迎えに来た島津家の車で島津邸へと戻った。


春彦は二人が到着すると伽羅と出迎え自室へと誘った。

そして、昨日調べさせたことを報告したのである。


「若月功平について調べさせたら色々分かった事があった」

若月功平は出張を名目に各地へ赴いて懇意にしていた女性と会っていたのは間違いない

「ただ各地というのは東京や大阪など都市部で6か所くらいだ」

その中には名古屋も入っている


一颯は頷いた。


春彦は写真を印刷したモノを彼らの前に置いた。

「彼の同僚が…まあ、やっかみ半分とネタ半分で逢引の様子を何枚か写真に納めていた」

一人の時もあったが同行者全員に聞き込んだらそう言う人物がいたというわけだ


友晴は「…そう言う人もいるんですね」と呟いた。


一颯は苦笑しつつ

「障子に目ありだ」

と写真を見ながら告げた。


そして、一枚に手を止めると

「これは」

と呟いた。


友晴は目を見開き

「長柄圭子」

と呟いた。


そこにはホテルのラウンジでお茶を飲んでいる長柄圭子と若月功平の姿があった。


春彦は頷いて

「ただ名古屋に関しては違う人物の方の枚数が多いんだ」

と告げた。


一颯はその数枚を見ると

「…福田…加奈子、か」

と呟いた。

「彼女を中心に二人が出会う切っ掛けになった可能性はあるな」

彼女が一人あの時間にバス停に来るという状況が無ければ

「圭子は宿を抜け出すにしても理由を作り難かった」


春彦は頷いた。


友晴は腕を組むと

「問題は証拠ですね」

と告げた。


一颯はそれに関して

「交換殺人なら二人ともにアリバイが無く犯行場所に近いところにいる」

特に名古屋には防犯カメラが多いから

「長柄義一の殺人容疑者として若月功平の足取りを追えば…きっとボロがでる」

それは向こうに帰ってからだな

と告げた。


そして春彦を見ると

「悪いな、助かった」

この借りはまた返す

と告げた。


春彦は笑顔で

「期待して待ってる」

と答えた。

「それで、6時から集まって会食会するから」

宜しく


一颯は笑って

「ああ、積もる話もあるからな」

と告げた。


その日、友人たちが集まって夕食会をし、一颯は再会を約束して再び名古屋へと戻ったのである。


常は記者として情報を収集しているのだが警察に伝手が無いわけではない。

が、一颯は長柄圭子と福田加奈子の二人を別々に事務所へと呼び出した。


圭子と加奈子は事務所の中で合流して目を見開いた。

一颯は二人に応接室のソファを勧めた。

「どうぞ」

今回の報告にはお二人に聞いてもらう必要があったので


二人は座り最初に圭子が口火を切った。

「あの、私たちにはアリバイがあったと思います」

共犯者になる可能性がある彼女を含めて親友二人も九州でした

「それは調べられたのでしょう?」


一颯は頷いて

「ええ、調べました」

三人とも間違いなく九州にいました

と言い、写真を彼女たちの前に置いた。

「今日お呼びしたのは若月功平の妻・紀美世さんの転落事件の方です」


圭子も加奈子も目を見開いた。


一颯は驚く二人を見て

「九州では今ごろ若月功平が貴方の夫である長柄義一氏の刺殺事件について警察へ呼び出されていると思います」

と告げた。

「この写真は九州の県警にもわたっています」


加奈子と圭子は顔を見合わせて視線を下げた。

一颯は二人に

「俺は自首を勧めます」

と告げた。


圭子は一颯を見ると

「何故?」

と聞いた。


一颯はそれに

「貴方がこちらの事務所に来たとき…綺麗だったから」

と答えた。

「夫を失って憔悴している様子がないくらいに」

綺麗だったので


圭子はフッと笑むと

「そうね」

だって今まで化粧も出来ないくらい働いていたんですもの

「浮気をして遺産が入ったら私をさっさと切り捨てて他の女と一緒になる夫から漸く今までの苦労した分を取り返して」

女らしく着飾ったわ

「でもそれが貴方の目に違和感として止ったのね」

と告げた。


加奈子は泣きながら圭子を抱き締めた。

二人は立ち去るとその足で警察へと自首したのである。


理沙は静まりかえった事務所の中で

「一度は愛した人なのに」

と呟いた。


一颯はそれに

「難しいものだな」

と言い

「ただ俺は…愛したからこそ幸せになって欲しいと思うが」

と告げた。


理沙は一颯を見ると笑み

「私もそう思うわ」

あと

「やっぱり共に愛し合う努力をしたいわね」

と告げた。


一颯は彼女を見返し

「なるほど」

確かにな

「互いに愛を育む努力か」

と微笑んだ。


理沙は目を見開き直ぐに視線を逸らせると

「…ヤバイ…ナンカ…ワタシ、ヤバイ」

とピーの言葉になりつつ心で呟いていた。


友晴はそれを見て小さく笑むと

「これは」

計画に進展ありですね

と心で呟いていた。


それぞれの思惑が交差し新しい年を迎えようとしていたのである。

しかし、新年早々大変な事態が彼らを待っていたのである。


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