その8 後半
一颯は少し考えて
「でも動きに違和感はなかったけど」
と業と聞いた。
節次は視線を下げて
「言葉」
あんたが信じるか信じないかは分からないけど
「あの時、俺と長田は…中川に町村のことでちゃんと話すからって呼び出されたんだ」
そこへ中川がやってきて
「急に掴んで引っ張るから長田が俺を庇ってくれたんだ」
と告げた。
「どんなこと書くか分からないけど長田を悪く書かないでくれ」
あいつ本当に優しい奴なんだ
「一生懸命で」
一颯はメモを取りながら
「そうか」
と言い
「あと二つ聞きたいことがあるんだが」
と告げた。
「町村匡彦と樫宮久という学生のことは知っているか?」
節次は頷いた。
一颯は笑むと
「転校した彼らが今どこにいるか知っているかな?」
と聞いた。
節次は考えて
「町村は知ってる」
樫宮は知らない
「同じクラスだったけどそれほど仲が良かったわけじゃないし」
と告げた。
一颯は真剣な顔で
「教えてもらえるかな?」
と告げた。
節次はそれに応えると笑みを見せて立ち去った。
友晴は一颯を見て
「…呼び出された…ですか」
と呟いた。
一颯はあっさり
「彼らの話ではそうだな」
と言い、笑むと
「まあここはどちらの話も聞いてから見極めないとな」
と告げた。
そして
「さて事務所に戻って整理するか」
と呟いた。
二人は車に乗り込み事務所へと戻った。
その頃には一颯が言っていた動画も見つかり、理沙が戻って椅子に座ろうとした二人に
「見つけたわよ」
と告げた。
「町村匡彦と中川与一」
それから
「樫宮久と中川与一」
一颯と友晴は彼女のノートパソコンを後ろから立って見つめた。
長田高雄の言っていた通りに樫宮久が一番古くほぼ1年少し前に投稿され、その半年後くらいに町村匡彦であった。
理沙はそれを流して
「こうして見ると最初の子の時も町村って子の時も今回のも似てはいるわね」
全部『善意の投稿者』っていうところもね
と告げた。
一颯は腕を組み
「そうだな」
と言い
「他の学生に聞くと二人が虐めをしていたということに驚いていたな」
ただ中川については他の生徒の話でも虐められていたというイメージはあったらしい
「そう言っている人間が多かった」
と告げた。
一颯はちらりとピーを見た。
ピーはそれに
「ラブリー」
と羽をばたつかせた。
一颯はそれに顔を背け
「明日、連れて行く」
と告げた。
ピーは羽根を更にばたつかせた。
「イブキー、ラブリー」
友晴は苦笑しつつ
「それで明日は?」
と聞いた。
一颯は考えながら
「町村匡彦に聞きに行く」
と告げた。
「町村は大阪だからその後に中川のところへ行くか」
そう言って坂路理沙を見ると
「裏サイトから一般的なSNSに動画を拡散させたユーザー情報を集めておいてくれ」
追える分だけで良いから
「頼む」
と告げた。
理沙はそれに
「はーい」
と答えた。
翌日、一颯はピーを連れて友晴と共に町村匡彦を訪ねた。
町村匡彦は大阪の高校に通っており眼鏡をかけて少し雰囲気が変わっていた。
一颯は下校中の彼を掴まえて話を聞くと
「長田と賀川まで嵌めようとしたのか」
と嫌そうな顔をした。
「確かに樫宮は中川を虐めていた」
けど俺は同じクラスだったが中川とそれほど接点はなかったんだ
「どっちかというと賀川と長田と三人で良くつるんでいたからな」
だからあの二人だけは俺が虐めてないって信じてくれてた
「大体、俺は中川に校舎の裏に呼び出されて行ったんだ」
そうしたら急に掴みかかって来て払っても掴むから
「いい加減にしろって…殴ったんだ」
一颯はメモを取りながら
「なるほど」
と言い
「それであの動画になったのか」
謝っている彼を殴る動画に
と呟いた。
町村匡彦は頷いて
「ああ、言葉は変わっているし…動画も名前も学校も直ぐに拡散されて」
だからこのメガネは伊達メガネ
と苦く笑った。
一颯は匡彦に
「中川与一と仲の良かったクラスメイトっているか?」
と聞いた。
「彼を庇っていた人物とか」
匡彦は首を振ると
「俺は知らない」
と言い
「あの頃は樫宮が幅を利かせていたから寄りつく奴いなかったし」
ただ卒業生に姉がいたと思うけど
「ちょうど重なったのは一年だけだったからなぁ」
けどアイツの姉が卒業する前に樫宮騒動があって
「アイツにしたら助かったんじゃないのかな」
と告げた。
「俺にとってはもうどうでも良いけど」
中川とは二度と会いたくはないな
そう言い
「けど、長田と賀川は今も親友だから」
二人とも絶対にやってない
「俺と一緒で中川に嵌められたんだと思う」
と頭を下げた。
「二人を助けてやってもらいたい」
俺の話を信じて欲しい
一颯は笑むと
「公平な目で見てちゃんと調べさせてもらう」
と答え立ち去った。
友晴はふぅと息を吐き出し
「本当にどっちが本当なんでしょうかね」
と呟いた。
一颯はメモを見ながら
「そうだな」
と言い
「ただ確実に一つ言えるのは樫宮久が中川与一を虐めていた」
それは全員が共通した認識を持っていた
「問題は残りの三人だな」
中川与一が仕組んだことなら何故三人を嵌めたのか
と告げた。
友晴は一颯を見て
「彼らの話を信じるんですか?」
と聞いた。
「動画よりも」
一颯は友晴を見て
「わからんな」
と言い
「ただ、樫宮の件は中川与一の姉の卒業前ってことが気になるな」
その辺りも調べてみるか
と告げた。
二人は昼食をとりながら中川与一に携帯を入れた。
詳しく話を聞きたいということで申し入れると16時に家の近くの公園でということであった。
一颯は彼から自宅の住所を聞き、一旦探偵事務所へと戻った。
そして、問題の動画と友晴が撮った動画を声紋鑑定に出したのである。
知り合いの伝手で科学鑑定のできる機関があるので坂路理沙に動画をメールで送らせたのである。
これでどちらが本当のことを言っているのか分かるということである。
一颯はそれが終わるとピーを連れて友晴と共に中川与一の家の近くへと向かった。
時間はかなり早かったが彼の姉のことも調べておきたかったのである。
中川家は落ち着いた住宅街の一軒家で特段目立った様子もなかった。
隣の家を訪ね街歩きの取材と称してそれとなく中川家のことを尋ねた。
応対に出たのは50代くらいの隣の家の主婦で彼女は一颯の頭のピーに気を向けつつも
「あ?ああ、中川さんね」
姉弟仲が良くてね
「お姉さんは東京クリエイティブ専門学校でアニメを作る仕事に付くための勉強をしているわ」
絵も上手で前に作ったアニメーションを見せてもらったわ
と笑顔で告げた。
一颯は笑顔で
「なるほど」
と答え
「でも東京なら余り帰ってこられないから」
ご家族は寂しいかもしれないですね
と告げた。
彼女はくすくす笑うと
「あらあら新幹線で二時間よ」
良く帰ってきているわね
「この前…一か月前くらいにも見かけたから」
と告げた。
「本当に仲のいい家族よ」
一颯は頷いて
「そうですか」
と言い
「それで、この近隣でおすすめのレストランを聞こうと思っていたんですけど」
と話題を変えた。
彼女は笑って
「あら、そうだったわね」
と答えたのである。
一颯は彼女のおすすめのレストランを聞くと立ち去り一緒にいた友晴を見ると
「中川与一の姉は動画を作れるってことだな」
と告げた。
友晴は頷くと
「そうですね」
と答えた。
その時、坂路理沙からメールが入った。
『声紋鑑定の結果が届きました。虐め動画と七尾さんの動画の声紋は中川与一以外は二本とも一致していないということです』
一颯はそれを友晴に見せて
「そう言うことだ」
と告げた。
「だが、あの画像を見ながら聞くと脳が本人の声だと認識してしまうんだろう」
友晴はふと動画を流した時に一颯が目を閉じていたのを思い出した。
「なるほど、それで目を閉じておられたのですね」
一颯は頷くと
「ああ、長田高雄は殴ったことは認めていたが言葉が違うと言っていたからな」
と告げた。
そして時計を見ると
「そろそろ時間だな」
と呟いて、頭の上のピーを見た。
「ピー」
ピーは首を振りながら
「ワタシ、ホムズ」
ワタシ、ホムズ
と鳴いた。
準備OKということである。
11月の午後4時というと既に黄昏時で町は黄金色に輝いていた。
一颯と友晴とピーは公園で中川与一と落ち合った。
与一は彼らを見ると
「本当に来てもらえるとは」
と告げた。
一颯は笑み
「まあ、これも仕事なので」
と答えた。
ピーは羽根をばたつかせると
「ワタシ、ホムズ」
イブキー、ワトン
と飛び立ち与一の頭に止った。
与一は驚いて
「え?」
と上を見上げた。
一颯は「あ、申し訳ない」と言い
「鳥とか動物がいると取材が結構しやすくてね」
なごむと言うか
と告げた。
与一は苦笑して
「そうですね」
と返した。
ピーは飛ぶと一颯の頭に乗り
「クシュー、フ、クシュー」
と鳴いた。
一颯はちらりとピーを見て直ぐに視線を与一に向けると
「それで君はどうして長田君と賀川君と町村君を嵌めたんだ?」
と聞いた。
「何があったんだ?」
与一は一瞬引き攣ったものハハハと笑うと
「え?俺は虐められた方で善意の投稿者の人が救ってくれたんですよ?」
あの動画が全てじゃないですか?
と告げた。
一颯は頷いて
「ああ、君がお金を請求されて殴られたって動画だろ?」
町村君の時は校舎の裏手で長田君と賀川君の時は体育館の裏手
「三人とも君に呼び出されたと言っていた」
と告げた。
与一はワッと両手で顔を覆って泣くと
「俺は虐められていたのに…虐めた方を信じるんですか!?」
そう言う記事を書くんですか!
「やっぱり力のある方の味方をするんですね!」
と訴えた。
一颯は腕を組むと
「俺は味方をするとかしないとかではなくて」
調べた結果で言っている
と言い
「長田君は自分に不利益なことがあってもちゃんと調べて欲しいと言った」
だから俺は調べた
「画像に細工はなかったが科学鑑定の結果声紋は彼らのものではなかった」
君の声紋だけが一致していた
「その意味は分かるか?」
と告げた。
与一は顔を上げると目を細めて
「…俺は知りません」
善意の投稿者がしてくれたことです
と答えた。
一颯は息を吐き出し
「わかった、じゃあ」
君の姉のしたことを俺が雑誌で公表しよう
「君は助かるが君の姉の未来はどうなっても良いということだな」
と告げた。
与一は蒼褪めて
「ね、姉さんがしたとどうしてわかるんですか!?」
証拠は?
と聞いた。
一颯は坂路理沙からのメールを見ながら
「学校の裏サイトに投稿された際のログのIPアドレスとSNSに拡散させたアカウントの持ち主…と言えばわかるだろ?」
と告げた。
「これらすべてを記事にして名古屋Nowtimeに載せる」
それで良いな?
与一は慌てて
「な、なんで?」
俺は虐められたから仕返しをしただけだ!
と顔をしかめた。
一颯は彼を見て
「ああ、確かに他の生徒に話を聞いたら最初にした樫宮久は君を虐めていた」
大半の人間がそれを認めていた
「だが、町村匡彦と長田高雄と賀川節次は当時同じクラスだったというだけで君と余り接点がなかったようだが」
と告げた。
与一は俯き
「あいつらは俺が教室で虐められているのを見ても助けなかった」
あのクラスの全員がそうだった
「だから、姉さんが自分が卒業したらもっとひどい目に合うかもしれないからってあの方法を取ってくれたんだ」
救ってくれたんだ
「けど樫宮がいなくなっても誰も俺に近付いてこないし、あいつら三人は何時も三人でつるんでいて…俺に話しかけてもくれなかった」
だから
「復讐してやったんだ」
あの時のクラスメイト全員に復讐して何が悪い!
と顔を上げた。
一颯は彼を見ると
「復讐?」
違うだろ
「君こそ樫宮と同じ虐めをしたんだろ?」
しかももっと質が悪い
「他の人間の力を利用してSNSリンチをしたんだ」
助けてくれない?近寄らない?
「君は他人ばかりだな」
自分の要求ばかりで他人を頼りにして思い通りにならなかったら相手が悪いか
「確かに樫宮は君を虐めていたそれは樫宮が悪い」
虐めは許されない事だ
「見て見ぬふりをしていたクラスメイト達も良いとは言えない」
だが君が樫宮にしても三人に対してもSNSリンチに合わせて良い理由には何一つならない
「まして自分の姿を隠れ蓑で隠して…それが良いと思っているのなら」
反対に彼らの立場になってそれをした人間の行動が正しいかどうか自分の中で問うんだな
「勿論、君たち姉弟がしたような虚偽じゃないけどな」
と踵を返した。
「君の行為は名誉棄損と信用棄損と侮辱の罪に問えるから」
与一は蒼褪めて
「ま、待って」
姉さんは俺を助けてくれようとしただけなんだ
「本当に…俺は虐められていて」
樫宮が毎日殴って
「お金も取られて」
だから
「姉さんは悪くないんだ」
姉さんのことだけは悪く書かないで…お願いします
と頭を下げた。
一颯は立ち止まって振り返ると
「虐められていた内容を全て両親や学校…それからお金を取られたのなら警察にも言え」
正当に訴えるんだ
「それから他の四人には謝罪をしろ」
もちろん許すか許さないかは俺には分からない
「だが、やるべきことをやって前を向いて歩いて行く方が良い」
やり方は間違っていたが君には君を守ろうと奔走してくれる人がいるんだ
「俺は君が姉を庇わなかったらこの事を載せるつもりだった」
だが今は君のこれからで決めようと思う
「君は君のこれからを考えて行けば良い」
と告げた。
「君の姉さんの為にも家族の為にも前を向いて自分の足で歩いていくんだ」
与一は泣きながら小さく頷いた。
その日の夜に長田家へと連絡を入れて翌日、調査内容を全て報告した。
長田高雄はじっとそれを聞き
「確かに、俺も町村も賀川も関りを持たないようにしていた」
中川のやったことは許せないけど
「俺も悪かったなぁと思うところはある」
と答えた。
「これから同じ場面にあった時に声を掛ける勇気が出るかどうかわからないけど」
考えて行こうと思います
「ありがとうございました」
一颯は笑むと
「誰でも迷ったり間違ったりすることはある」
だが自分の行動が間違っていたと思った時に踵を返せるかどうかで変わる
「勇気がいることだがな」
と答えた。
中川与一と姉は両親と共に四人に謝りに行き、姉はアカウントで動画を取り下げてやらせ動画だと告白してアカウントを削除した。
学校側も裏サイトを削除するように要請し虐めの実態を調べ始めたのである。
一颯は相変わらず「寒い、寒い」と言いながら紅葉の街中をピーの散歩に歩いていた。
11月も終わり12月…一年が終わろうとしていたのである。




