その2
シトシトと雨が降り、頭上高く広がる空には鉛色の雲が一面広がっていた。
一色一颯は傘を差しながら名古屋城の堀の周囲を歩いていた。
所謂、オカメインコのピーのお散歩である。
「雨の日くらい籠の中で寝てろってーの」
と言いながらため息交じりにぼやいた。
ピーは湿気で羽が重たいのか何時ものようにパタパタとしないものの口は軽く
「ワトン、イブキー、カゴノナカ」
と言い返した。
が、意味不明である。
一颯は舌打ちすると
「俺が籠の中じゃなくて、お前だ!お前」
ピー
と視線を上に向けた。
「俺が入れるかっつーの」
周囲に人はおらず鳥と喧嘩する青年に疑惑の目を向ける人も居なかった。
晴れた日であれば名古屋駅の方まで行くが雨の日は城一周で終わりである。
と言ってもかなりの距離がある。
一颯は足元を濡らしながらおこめ探偵事務所のあるビルにたどり着くと傘を畳んでエレベーターに乗り込んだ。
先月の資産家予告状事件以来探偵の仕事は来ていない。
つまりは暇人である。
探偵の仕事なんてものはそんなものである。
一颯はエレベーターから降りて探偵事務所の戸を開けながら
「今日の仕事は終わりだな」
と言い、ふっと視線をあげて目を細めた。
探偵事務所の社長である尾米正の前に高校の制服を着た所謂女子高校生が立っていたのである。
尾米正は帰ってきた一颯を見ると
「一色君、仕事仕事」
と手招きをした。
一颯はピーを頭に乗せたまま
「そのJKの依頼ですか?」
とチラリと女子高校生を見た。
彼女は肩越しに一颯を一瞥し
「この人が探偵ですか?」
と尾米正に視線を戻して聞いた。
尾米正はにこやかに笑むと
「我が探偵事務所の唯一の探偵です」
と答え、一颯に
「そう、彼女…浅見美咲さん」
名古屋クラシック学園の2年生
「手を出しちゃだめだよ、一颯君」
と告げた。
一颯は酷薄の笑みを浮かべると
「しゃちょー、なんで俺がJKに手を出さなきゃらねぇんだよ」
射程外だ
とスッパリと答え、美咲に
「そう言うことだから安心して詳細を教えてもらおうか」
と応接用のソファに腰を下ろした。
ピーは同時にパタパタとはばたくと美咲の頭の上に乗り
「…」
と2秒止って直ぐに一颯の頭の上に戻った。
…。
…。
一颯は冷静に
「籠に戻れ」
と命令した。
ピーは羽根をパタパタさせると
「ラブリー、ワトン、カゴノナカ」
というと籠の中へと戻ったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。