その6
一颯は肩を竦めると
「お前の立場じゃしょうがないだろ」
と立ち上がり
「じゃあ、明日の準備をするぞ」
と告げた。
友晴は頷き
「かしこまりました」
と立ち上がった。
二人は事務所に戻るとお弁当を食べていた坂路理沙から三清グループの書類を受け取り、目を通した。
明日の10時に直接会って話をするということだが…三清精密機器にしても三清グループにしても大きな問題が起きている様子はない。
つまり見当がつかないということである。
お弁当を食べ終えた理沙は二人に
「口コミとSNSで少し調べただけなんだけどね」
経営に困っているとかそう言う情報はなかったわ
「ただ信ぴょう性は低いけど…内部で何か派閥が出来ているらしいっていうのがあったわ」
と告げ
「これ、一応書き込み印刷しておいた」
と渡した。
一颯はそれを見ると
「ほう、良く見つけたな」
と理沙を見た。
理沙はにこりと笑むと
「全て網羅できてないし信ぴょう性には欠けているけどね」
と答えた。
一颯は笑むと
「わかった」
と答えた。
友晴は二人の遣り取りを眺めながら
「なるほど」
と心で呟いていた。
考えれば坂路理沙を一色一颯の動向を知るために送り込んでから10年近くになる。
その間に培われた阿吽の呼吸なのだろう。
一颯が『坂路と上手く行っている』『信頼している』というのはこういうことなのだろう。
一颯は友晴にもその印刷を見せて
「少し調べた方が良いかもしれないな」
と告げた。
友晴は頷くと
「そうですね、明日の相談はこれかもしれませんからね」
と答えた。
その後、夕方の5時まで一颯も友晴も理沙もそのSNSの書き込みの内容で検索をかけて調べ、情報を纏めた。
一颯は身体を伸ばしながら
「よし、明日の10時だな」
と呟いた。
「今日の仕事は終わりにする」
外は夕陽が街を照らし金色に染めている。
一颯の帰宅に合わせて友晴もおこめ探偵事務所のフロアを後にした。
一颯の身辺を守ること。
従家として信頼を得ること。
など、友晴の役割は仕事以外にもあったが、一颯の性格を考え仕事場を離れたら極力接触を避けた方が良いと判断したのである。
つまり、自由ということだ。
なので、夕食も一颯が誘わない限りはそれぞれ別で食べているのである。
二人とも自炊ができるからである。




