その5
彼女はその訃報を聞き激しく悲しんだが少しして立ち直ると一颯とおこめ探偵事務所の協力でひっそりとだが葬儀を行った。
そこに立花聡志が訪れ
「妻の節子が聡一を連れて急に行方を断って」
理由は分からないですが
と告げた。
黒崎零里が死に上条節子にとって立花聡志の価値がなくなったのだ。
それでも息子には愛情があり夢を賭けて連れて行ったのだろう。
一颯は彼女が2人の前に現れることはもうないだろうと感じていたのである。
茜は一颯を見て微笑むと
「私、戻ります」
と言い、僅かに頬を染めて
「でも一颯さんと過ごせて本当に良かったです」
あのことも…私は後悔してません
と微笑み、聡志の手を掴んで
「立花のお父さん」
私、もう一度お父さんと一緒に暮らしても良いかな?
と聞いた。
聡志は抱きしめて
「いいのかい?」
と聞いた。
茜は頷くと
「うん」
だってお父さんは立花のお父さんが私を育ててくれたって
「私もそう思うから」
と抱きしめ返した。
彼女は立花聡志と共に立花家へと戻った。
苗字は二人の話し合いで『黒崎茜』と戻し、名古屋を去って行ったのである。
救いは、あの日から要求書に書いていた三日を過ぎても愛知県は穏やかで何も起こらなかったことだろう。
一颯は葬儀後に幸一の元を訪れ
「しかし、あの上条節子は子供を連れて何処へ行ったのか」
と呟いた。
幸一はそれに窓に視線を向けると
「わからんな…ただ資金はなかったしそれを知る人間ももういなくなった」
彼女としては夢破れてだな
と呟いた。
「それよりあの子が去って寂しいんじゃないのか?」
二週間だったが色々あったようだからな
一颯は視線を逸らして
「俺はやっぱりJKと相性が悪い」
とぼやいて誤魔化した。
訃報が届いた夜に彼女を抱いた。
『今だけで良いんです』
抱いて
『お願い…今だけ…』
身を委ねられて何かが胸の熱い塊が身体を支配した。
初めての感情だった。
一颯はその夜のことを思い出し疼いた胸の熱さに小さく息を吐き出した。
だが、彼女は去って行ったのだ。
一颯は窓に目を向けて胸の中を過る寂しさに
「…幸せになれ」
絶対に
と囁くように呟いた。
初恋…だったのかもしれない。
だが、それに応える声は何処からも帰ることはなかった。
ただこの時、外ではキラキラと太陽が輝き地上を穏やかに照らしていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




