その5
「目的は『JDW』の隠し資金かもしれない」
…とにかく黒崎零里に面会させてもらいたい…
「手配を頼む」
幸一は頷くと
「わかった」
と答えた。
翌日の昼に一颯は茜を連れて清洲刑務所の面会室へと姿を見せた。
そこに黒崎零里が来ていたのである。
茜は零里を見ると
「お父さん、私…ごめんなさい」
と涙を落とした。
一颯はそれに
「彼女は貴方会いたさに自作自演の罪を犯したんだ」
と言い
「ただ…けが人が出ないようにしていたし17歳だから保護観察処分で済む」
だからそこは安心してもらいたい
と告げた。
零里は深く頭を下げた。
「娘を…茜をお願いします」
一颯は彼を見つめ
「それで一つ確かめておきたいことがある」
その懸念がぬぐえない限り今後も彼女が巻き込まれる可能性がある
と告げた。
「あんたが自首をした時に全てを自白したとなっているが」
本当に全てを自白したんだな?
零里は全てを一瞬で理解すると
「ああ、間違いなく」
だから俺を誰かが手に入れたとしても意味がない
と告げた。
そして茜を見ると
「茜、お前の母親のことを話しておく」
と告げた。
茜は目を見開いた。
零里は微笑むと
「お前の母親は素晴らしい女性だった」
優しく何よりも思いやりのある正義の人だった
と言い
「彼女はある子供の命を救うために咄嗟に庇って死んだんだ」
と告げた。
「すまない…茜」
お前は俺のような人間ではなく
「彼女のような人間になって欲しい」
茜は微笑むと
「お父さん、ごめんなさい」
というと
「私、お父さんのようにお母さんのようになるわ」
立花のお父さんがお父さんは心根の優しい人だって言ってた
「だから私もお父さんとお母さんのように優しい人間になるわ」
と告げた。
零里は指先を伸ばしてガラスにつけると
「立花に預けて良かった」
アイツは本当に良い奴で
「俺の方が幼い頃ずっと助けてもらっていた」
と言い
「お前が今こうやって良い娘に育ったのもあいつのお陰だ」
と告げた。
そして立ち上がると深く頭を下げて部屋を去った。
黒崎零里が死んだのはそれから一週間後のことであった。
自殺だったのか。
病気だったのか。
それは分からなかった。
眠ったような状態で死んでいるのが見つかったのだ。
一颯は彼が最後まで持っていた一枚の紙で茜の母親が誰だったのかを理解したのである。
『JDW』の襲撃で死んだ朧遊羅。
彼は彼女の死亡記事と娘と写っていた写真だけを持っており、茜は正に彼女に生き写しであった。
黒崎零里が自首をした本当の理由は彼女の死だったのかもしれない。
一颯はそう理解したのである。




