その5
愛知県の巨大ターミナルの一つ…JR名古屋駅。
そこは多くの人々が行き交う鉄道の駅である。
特に夏休みになると他に区域からも観光などでやってきて更に賑わいを増す。
そんな中で駅の女子トイレの個室で小規模な爆発が起きた。
幸い利用者が一人で爆発した場所を開けて利用していたので怪我はなかったがその直後に県庁宛てに封書が送られてきたのである。
指紋はなく。
手書きではく。
内容は『三日以内に黒崎零里を釈放しなければ今度は多大な被害者を出す爆破を行う』というものであった。
黒崎零里というのは30年ほど前に『改新』という小さな団体から『JDW』という巨大な団体を作った男である。
主に資金調達管理や機器の開発を行っていた。
しかし『JDW』が政財界の集会を襲撃したことにより自首をしてきたのである。
「俺が作った『改新』はもう何処にもない」
いや『改新』を作ったこと自体が間違っていたのかもしれない
そう言うことであった。
現在は愛知県の清洲刑務所で服役をしている。
模範生として日々静かに暮している。
本人が出獄を望んでいる訳ではなかった。
その黒崎零里を釈放しろと言ってきたのだ。
『JDW』が関連している可能性は否定できなかった。
その報告を愛知県警から受けて那須幸一は自宅の書斎で目を細めて小さく息を吐き出した。
「JDWか」
黒崎零里が自首してきた時に壊滅的なまでに叩いたが残党がいたということか?
当時は政財界から警察機構に至るまで様々な人間が所属していた。
だが、彼の自供により全てが明らかになり即座に取り締まった。
それこそ全国各地で行われた壮大な逮捕劇であった。
その残党がいたとすれば…厄介である。
どれだけの人脈が残っているか分からないからである。
警察機構も政財界もある意味信用できなかったのだ。
幸一は暫く目を閉じて天を仰ぎ
「…一颯君に頼むか」
もし『JDW』の残党なら絶対信頼できる人間に頼むしかないからな
「ただ、益田家にも話を通しておかないとだめだな」
と呟いた。
窓の外の空にはギラギラとした眩しすぎる陽光が輝いていた。
リショット
おこめ探偵事務所に一本の電話が入った。
尾米正は電話を受けると
「はい、はい、かしこまりました」
と答え通話を切った。
それに坂路理沙は不思議そうに視線を向けた。
極々普通の依頼の時の対応とは全く違っていたからである。
彼女は心の中で
「那須…幸一氏ね」
と呟いた。
尾米正の主家…つまり主である。
尾米正は彼女と同じように『那須さんだな』と思って席に座りながら視線を向けている一色一颯を見ると
「思っている通り那須さまです」
と言い
「今から迎えが来るので那須様の自宅へ行ってください」
と告げた。




