その4
羽田野大翔が選んだ花山椒という店は日本庭園がある高級割烹で座敷が用意されていた。
切り盛りするのが女将の加賀ゆり子と彼女の夫である加賀青磁であった。
利用する客は名古屋でも資産家が多く殆どが一見様お断りという店であった。
4人は女将の挨拶を受けて一番奥にある部屋へと行きかけて同じように店へと入ってきた6人ほどの男性を見た。
代議士の友岡克也に医者の田口紋太、それにその秘書と他にも3人の男性であった。
ゆり子はハッとすると目を向けた友岡に会釈をして一颯たちに視線を戻してそのまま奥の部屋へと足を進めた。
友岡克也はその姿を見つめ秘書の新潟喜一に
「おいおい、なんだあの若造たちは」
女将が俺に一礼だけなんて
「後で部屋呼べ」
と告げた。
そこへ主人の青磁が現れ
「いえ、今日は私が案内させていただくことになっておりまして」
遅れまして申し訳ございません
とフォローを入れて
「どうぞこちらへ」
友岡先生
と歩き出した。
友岡はフンッと鼻息を出して足を進めた。
「しかし、先の暴走車の話は危なかったな」
送迎車が時間通りだったら我々が巻き込まれていたかもしれん
そう言いながら蝶の間へと入って行ったのである。
先を行きながら一颯と春彦は同時に足を止めると肩越しに玄関口に視線を向けた。
前を歩いていた女将は立ち止まった二人に
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
と言い
「でも、ご無事でよかったですわ」
と告げた。
春彦はそれに
「え、ああ」
ご心配ありがとうございます
「大丈夫でした」
と答えた。
女将は少し戸惑いつつ
「本当に暴走車って怖いですものね」
と言い、部屋の前に来ると
「どうぞこちらになります」
と襖を開けて4人を通した。
伽羅はいつの間にかピーと仲良くなっており頭に乗せて
「ピーちゃんをモデルに絵描いてやるからね」
と呼びかけた。
ピーは羽根をパタパタさせながら
「カラ、モデル、ヨヤッタネ」
と喋った。
一颯は肩を動かしながら部屋の中の椅子に座り中庭を見た。
春彦も大翔も伽羅もそれぞれが椅子に座り同じように庭を見つめた。
日差しが射しこみ手入れのされた庭を浮かび上がらせている。
一颯は旬彩が運ばれると膳を持ってきた仲居に
「あ、そう言えば」
外での騒ぎだけど
と声をかけた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




