その2
彼女は立ち上がると一颯を正面から見据え
「…高々探偵一人のしょっぽい事務所だと思ったけど」
そうじゃなかったみたいね
というと
「どうせあの学園のあの教師に対して手を打っているんでしょ?」
と告げた。
一颯は微笑み
「二週間後の名古屋Nowtimeを見れば分かる」
と答えた。
「名古屋クラシック学園が秀でた教師を集めて世界に対抗できる人材を育てているっていう記事が載る」
その一人として三河亜津志が取り上げられている
古波彩は目を見開くとクスクス笑ってやがて大きく笑うと
「…なるほど、世相を対峙相手に持ってきたわけね」
と肩を竦め
「嘘やハッタリではすぐに調べられてこちらが叩かれると言うわけだ」
と一颯を見た。
「今回は…手を引くわ」
でもね
「社会を裏側から押し上げて支えているのは巨大な企業なの」
そこに持続力をつけなければ社会は混乱するわ
「小さな会社の社員数と大きな社員の数は雲泥の差」
倒産した時の経済的ダメージも比率的に違う
「一概に私たちのやっていることが悪いとは思わないわ」
一颯は彼女を見つめ
「それは屁理屈だな」
と言い
「確かに巨大な企業の方が社会への干渉度が大きい」
あんたの言っていることはある意味正しいが
「法や人を踏みにじってすることが正しいとは思わない」
誤った力は建前を立ててもただの暴力だ
「もっとも力がないと何もなさないのと同じだと言われているがな」
だが正しい分だけマシだと俺は思ってる
と答えた。
彼女は背を向けると
「貴方と私は相容れられないみたいね」
と言い、肩越しに一颯を見てにっこり笑うと
「でも気にいったわ」
貴方を私たちの世界へ堕としてあげる
「貴方なら最高の人材になれるわ」
と立ち去った。
一颯はふぅと息を吐き出すと
「あんたよりずっと以前に堕ちてたさ」
と言い、窓に視線を向けると
「だが、そこから俺を引っ張り上げてくれた奴がいる」
と呟いた。
『本当にやりたいことはこんなことじゃないだろ!』
そう言って手を掴んでくれた。
一颯は微笑むと
「俺はお前にも負けないぜ」
と呟いた。
坂路理沙と尾米正は一颯を見てそれぞれの主人が何故一颯に肩入れをするのかが少しわかった気がしたのである。
ピーは籠の中で羽を羽ばたかせながら
「イブキー、ラブリー」
と鳴いて、一颯に
「ピー、お前それやめろ」
と注意されるのであった。
二週間後。
名古屋Nowtimeに記事が載り、偽記者だと信じていた斎藤貴子を驚かせたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




