その2
一颯は息を吐き出し
「どちらにしても…彼女の言うままになるわけにはいかないな」
と呟いた。
翌日、一颯は探偵事務所に出勤しピーを連れて散歩に出た。
一颯の中ではあの浅見美咲がやってくる前に彼女の正体を突き止めておかなければならない気持ちがあった。
学園の女子高生ではなかった。
瀬野尾テクノロジーコーポレーションの人間かも知れない。
だが。
一颯は目を細め
「相手の正体を知らずに戦うのは銃口に向かって素手で向かうようなもんだな」
と言い一覧の紙を手に
「瀬野尾テクノロジーコーポレーションへ出向くか」
と呟いた。
しかし、その日の午後。
休みを取っていたはずの坂路理沙が出勤すると一颯に一枚の紙を見せた。
「浅見美咲の正体です」
一颯は驚いて
「…何故?」
と聞いた。
坂路理沙はにっこり笑うと
「有能な事務員ですから」
と答えた。
一颯は笑みを浮かべ
「なるほど」
と答えると浅見美咲の身上書を見て目を見開いた。
「…そうだったのか」
と言い
「よし、これで準備は整った」
そう告げたのである。
二日後、浅見美咲が姿を見せた。
女子高生の姿である。
尾米正は愛想笑いを浮かべ
「ようこそお越しくださいました」
と告げて応接室の椅子に案内した。
浅見美咲は弱々しく礼をして
「それで、依頼した件ですけど」
三河亜津志を学校から放り出してくださいましたか?
と座りながら問いかけた。
それに椅子に座っていた一颯が立ち上がり
「名古屋クラシック学園の2年生の浅見美咲さん…いや、M&Aコンサルティング『マザーズ』の古波彩さん」
と上申書を彼女の前に置いた。
「あんたの会社は非合法な方法で企業の合併や買収、また個人の囲い込みなどの下準備をする…言わば仕掛け人だ」
浅見美咲…いや、古波彩は目を細めると急に態度を変えて足を組み、腕を組んで
「良く調べたわね」
とチラリと一颯を見た。
一颯は彼女を横手から見下ろし
「優秀な情報元があるからな」
と答えた。
彼女は視線を伏せ
「そう」
というと
「何時、気付いたのかしら?」
と聞いた。
「学園に仕掛けてからだと手遅れの筈なんだけど」
一颯は冷静に
「始めから?」
と答えた。
彼女は業と驚いたように一颯を見ると
「あら、どうして?」
と返した。
一颯はインコを見ると
「あのピーがあんたの頭の上に乗って直ぐに俺の元へ帰ったが」
ご機嫌斜めだったから
とにっこりと笑った。
それはある意味正解で、ある意味話すつもりはないという返事だった。
そんなことを教えて対策を立てさせるわけにもいかなかったのだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




