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Reshot  作者: 如月いさみ
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予告状

一話だけエブリスタで書いてました

桜の花弁が空間を彩る季節が過ぎ去ると、木々の枝を新緑が鮮やかに彩り始める。


5月初めのGW。


夏目奏斗は五分袖の白シャツに黒ズボンと初夏に適した服を身に纏って名古屋駅前の大通りを歩いていた。


薄い色の髪に黒ではなく少し青味がかった瞳。

彫が深く整った容貌は周囲を歩いて人々から浮き立っていた。


昔からこの容姿に奏斗はコンプレックスを持っていた。


どうして極々普通の家庭で極々普通の容姿で生まれなかったのだろう。

そうすればもっと違う人生があったのかもしれない。


奏斗は今もなお時々振り向いて自分を見てくる人の視線を鬱陶しく思いながら駅前の十字路を駅に向かって足を進めた。


こんなところとは『おさらば』だ。

そう心で吐き捨てたとき斜め後ろの方から悲鳴が響いた。


「ピギャー!コノ人怖イヨ!イッパイ怪我サセルヨ!怖イ!怖イ!逃ゲテ――!!」


声に奏斗は思わず何事だ!?と振り向いて、男の肩の上で騒ぐ鳥に目を向けた。


一匹のオカメインコが叫びながらパニックっている。

そう、インコが騒いでいたのだ。


周囲の人々も驚きインコを見ると騒めいた。

正に何事!?である。


が、その瞬間、男が懐からナイフを取り出すと

「くっそぉ!このくそ鳥が!!俺の計画が…」

と叫ぶと周囲を睨んで振り回し始めた。


GWで人通りも多く鳥の悲鳴が人々の悲鳴に切り替わり逃げ惑う人々が蜘蛛の子を散らすように四方へと広がった。


奏斗は無意識に人々を避けながら男の方へ向かうと咄嗟に鞄を投げつけ男が避けると同時に間合いを詰めた。


動きはずぶの素人だ。

訓練された者の動きではない。


奏斗は瞬時に判断すると

「こいつなら伸せる」

と心で呟き、男が態勢を立て直してナイフの先を奏斗に向かって振り切ろうとした瞬間にその手頸へと手刀を振り降ろした。


いや、振り下ろしたのだが…その手刀は横手から薙ぎってきた手に振り払われ驚いて向けた視線の先で、割り込んできた男性が男の急所である胸を軽く突くと気を失わせた。


一瞬の出来事であった。


男は気絶して倒れ、その上でインコが

「ワタシ、ホムズ、ヨ!ピギャ、ワタシ、ホムズ、ヨ!犯行ミツケルヨ!」

と騒いでいる。


立ち尽くす奏斗の前で男性はインコにため息を零すと

「うるさい…お前の名前はピーだろうが」

しかも犯行見つけるんじゃなくて犯人を見つけるだ

「ったく、何がホームズだ、ケッ」

と言い、奏斗を見ると

「お前、こいつの手を折るつもりだったろ」

それをすると過剰防衛になるぞ

とニヤリと笑った。


奏斗は自分の行動を視抜いた男を周囲にパトカーが集まり警察官が駆け寄る混乱の中で呆然と見つめていた。


Re Shot


そこは名古屋能楽堂の斜め向かいにある小さなビルの3階。

『おこめ探偵事務所』という看板がかかる如何にも怪しい探偵社であった。


夏目奏斗は探偵事務所の応接室…と言ってもワンフロアだけなので仕切りがあるだけの簡易な応接室のソファに座り室内を見回した。


「あの、それで俺に話って何ですか?」

というか

「この鳥…糞しませんよね」

俺の頭の上で

オカメインコが頭に留まった状態のまま奏斗は怪訝そうに告げた。


正面に座るのは眼鏡を掛けたうだつの上がらなさそうな60歳くらいの男性である。

先ほど奏斗の手刀を邪魔した男と一緒にいた人物で彼が自分をここへと誘ったのである。


男性はにこやかに

「その子はうちの事務員の坂路さんのペットのオカメインコでね、ホームズくんなんだよ」

大丈夫、大丈夫

あははは…と笑った。


奏斗は「あれ?このインコはピーって名前では?」と心で突っ込み、フロアの中央にある4つ組の机の一つに座る先程の男を見た。


自分の手刀を止めて且つ男の急所を一突きして気絶させた人物である。

彼に興味があったので付いてきたのだ。


もしかしたら、彼ならば…という気持ちがどこかにあったのかもしれない。


前に座っている男性は彼に視線を向ける奏斗に名刺を出すと

「私はこのおこめ探偵事務所の社長の尾米正というんだが」

どうだい、うちでアルバイトをしてみないか?

と笑顔を浮かべ

「先の現場での動き凄かったよ」

と褒めた。


言われ、奏斗はハッと我に返り「え?」と尾米正を見ると

「オカメ正?」

と聞き返した。


正は「いやいやいや」というと

「オカメはピーちゃんで私は尾米だ」

と言い直し

「そこの彼が今うちで唯一の探偵である一色一颯くんだ」

中々ヤリ手でね

「ピーちゃんとも仲が良い」

と満足そうに頷き

「君がもしこの『おこめ』探偵事務所に来てくれるなら一色君と組んで仕事をしてもらおうと思ってね」

今は何もかもを彼一人にさせているので気の毒で

「相棒を探していたんだよ」

と告げた。


それに椅子に座って煙草をふかしていた一色一颯は嫌そうに顔を顰め

「しゃちょー、俺にガキの子守りまでさせようっていうのかよ」

どう見たって未成年だろ

「中学?高校?」

その辺りだろ

「何か心に一物持ってんじゃねぇの?」

と吐き捨てた。

「俺はそいつのようなガキが嫌いなんだよ」

ただでさえそのピーだけで面倒くさいのに更に面倒増やす気かよ


言われ、奏斗は少し考えたものの

「俺、アルバイトします」

と答えた。


一颯はハァ!?と煙草を落とすと

「お前、いま俺の言葉聞いたよな?」

聞いたよな?

と指を差した。


奏斗は頷いて

「はい、聞きました」

と答えた。

「けど、俺がやりたいと思ったのでします」


…。

…。


あんぐりと口を開けて呆れる一颯に奏斗は綺麗な笑みを浮かべて

「俺の名前は夏目奏斗」

年齢は17歳です

「働ける年なので宜しくお願いします」

と頭を下げた。


周囲では事務員の坂路理沙と社長の尾米正が

「やったー」

「よかったですー」

とどんちゃん騒ぎで喜んでいた。


オカメインコのピーも奏斗の頭の上で

「ヨヤッター」

「ヨヤッデスー」

と二人の言葉が混在した状態で喜んで喋っていた。


一颯はふぅと息を吐き出すと煙草を灰皿に押し付けオカメインコのピーを指差すと

「おい、お前に一つだけ言っておく」

その頭のピーが先みたいに誰かの上で騒いだ時はあの男のように動けなくしろ

「そいつは触れた相手の次にする行動を視る力を持ってるからな」

お前の上で騒がねぇのは不本意だがな

とぼやき

「ただし、過剰防衛はダメだぜ」

とニヤリと笑った。

「俺がお前の面倒をみるんだ」

お前にピーの面倒をみさせてやる


奏斗は目を見開くと頭の上で

「ワタシ、ホムズ、ヨ!イブキ、ワトン、ヨ!ラブリー」

と騒ぐオカメインコを思わず見ようと視線を上に向けた。


そんなピーと奏斗に一颯は

「信じるなよ!誰がワトソンだ!!何がラブリーだ!ざけんな!」

ピー野郎!!

と怒鳴った。


肩に乗った人物の次の行動を視る不思議な力を持つインコのピーと。

ヤリ手の探偵である一色一颯と。


夏目奏斗はフムッと考えると

「…ホームズにワトソンって…このオカメインコ、頭がかなりいい」

と感心しながら心で呟いていた。


この時、外の空は晴れ渡り初夏に似合いの爽やかな風が流れていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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