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お飾り王妃は愛されたい  作者: 木崎優


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9話

 リンエルは本当に小さな国だ。それは山が多く、居住地として使える場所があまり多くないことが関係している。しかも天候が変わりやすく、災害が起きやすい。

 予知夢――王家の誰かが天災を予見し、それに備えるために物資の輸入をすることはあるが、基本的には自給自足が根付いているため他国との貿易もそれほど盛んではない。


 ――というのを、予知夢の部分を省いて説明する。


「他国との交流自体それほど重要視していないので、王家に誰かが嫁いできたり、王家の誰かを嫁がせることも稀で……私のように他国に嫁ぐために国を出るのは数百年振りになるかもしれないわ」


 王族の結婚相手は国内で見繕う。下手な相手と縁付けば、王家に備わる力が他の国に知られるかもしれないからだ。

 私がライナストンに嫁ぐことが認められたのは、支援に対する感謝の表れでもあるが、何よりも私に王家の力がないと思われていたのが大きい。

 外に出しても脅威にはなりえないと、そう判断されたのだ。


「ずいぶんと閉鎖的な国なんですね」

「他の国からしてみれば、変わっているように見えるでしょうね」


 王家に予知の力がなければ、とうの昔に滅びていただろう。だが大きな災害を予知し、備えてきたから今の今まで国として成り立っていた。

 だからこそ、国が傾くほどの天災を予知できなかった役立たずとして扱われた。


 ――いや、役立たずだと言われた所以はそれだけではないか。


 王家の者はみな、予知夢の中で自分の死か、あるいは近しい者の死を見る。天災によって困窮し息絶える民を見る。

 いくら備えて無事だったからといっても、予知夢を見た者からすれば実際に起こりえた出来事で、味わった苦しみだ。


 他の者――予知夢ができない者が知ることのない苦痛の共有。それが王家に連なる者を強く結びつけている。


 だから、それを知ることのなかった私に対し、どうしてこの子だけと思ってしまうのはしかたのないことだろう。


 私の母は王家の血をひいてはいなかったが、それでも兄や姉が飛び起きて苦しむのを見てきた。

 国の存続のためとはいえ、起きて夢の中の自分の無力さを嘆き、どうすればいいのかを考える我が子の姿に、胸を痛めたこともあるだろう。


 なのに私だけが何も見ず、困窮し苦しむ民をみなで見ることになり、どうしようもないほどの異物感を、私に抱いたのだろう。


 王の子ではないのかと疑われなかっただけでもありがたい。だけど子として扱われたからこそ役立たずと呼ばれ、複雑な思いを抱いて、私はライナストンに嫁いできた。


「シェリル様、どうされましたか?」

「……国のことを思い返していたら、懐かしくなってしまって……」

「あ、それは……そうですよね。簡単に行き来できる場所ではないですが、落ち着いたら一時帰国できるように手配しましょう」

「ええ、そうね。そのときはお願いするわ」


 予知夢の中の私は落ち着くこともなく、終わりを迎えた。

 あの私は国に帰れたのか、それとも王妃だからライナストンの地で眠ったのか。


 どちらにせよ、今の私には関係ないことだと小さく頭を振る。

 予知夢の力は強く、同じ道筋を辿れば同じ未来に至ると言われている。だから、同じ道筋を辿らないようにと、絶対にオーギュストと結婚してなるものかと、改めて強く決意した。




 それからも二回ほど城下に降りて、昼食会を行う日となった。

 招待したのは四名ほど。私と年の近い令嬢ばかり。


「このたびはご招待いただき光栄です」


 丁寧な挨拶をしてきたひとりは、いずれオーギュストが愛することになる伯爵家のご令嬢レイチェル。

 人選を任せた結果、彼女も招くことになった。


 招待客のリストを見て知っていたけど、こうして間近で見るまでは実感がわかなかった。

 なにしろ、レイチェルが侍女見習いとして城に訪れたのは一年後で、こんなに早くに来ることはなかったから。


 夢の中の私は昼食会を開こうとはしていなかったので、その差なのかもしれない。


「本日は招待に応じていただきありがとうございます」


 どうしても気になってしまうけど、レイチェルにばかり気を取られていては、何かあるのではと勘繰られるかもしれない。

 夢の中で見たのでとはさすがに言えないので、ほかの三人にも視線を送りながら挨拶する。


 それから席に座り、ちょっとした自己紹介や近況といった雑談に花を咲かせる。それに私は、相槌を打ちながら一口サイズのサンドイッチを食べた。

 ライナストンにおいて、嚙み跡が残るのははしたないとされている。だから、こういったかぶりつくものは一口サイズで提供される。

 リンエルではパンに具材をはさむ簡単なものだった。大きなお肉の挟まったサンドイッチを懐かしく思いながら、またひとつ、サンドイッチを口の中に入れる。


 昼食会が行われているのは庭園が見えるテラスで、オーギュストが入り浸っている執務室からは離れている。

 オーギュストが顔を出すことはないだろうけど、念のため。


 侍女見習いとして働きに来たレイチェルと出会うのだから、今ここで知り合うとおかしな話になるからだ。

 出会いが変われば、後に育まれる愛情も変わってしまうかもしれない。それを危惧して、オーギュストがちらりとでも顔を見せない場所を設定した。


 出会いが早まり、恋心が育つのも早まるのならいいけど、もしもそうではなかったら、私は解放されることなく王妃になってしまう。

 そして、彼が愛に目覚める日を怯えて待つことになる。

 

「陛下がお妃様を迎える気になって、嬉しく思います。陛下がどのような方を娶られるのか、社交界ではよく話題に上がったもので……こうしてシェリル様にいらしていただいて、みなさま安心しているのですよ」


 ――なんてことを色々考えていたのだけど、杞憂だったらしい。

 口振りからして、レイチェルとオーギュストは少なくとも顔見知り程度の関係ではあったようだ。


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