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お飾り王妃は愛されたい  作者: 木崎優


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4話

 部屋に戻り、感謝を伝えるはずが裏目に出たことに消沈していると、朝食が運ばれてきた。

 オーギュストと一緒に食事を――なんてことはない。忙しいからと、私はいつもひとりで食事をしていた。それは結婚していない今でも変わらない。


「陛下はご多忙ゆえ、ご理解くださいませ」

「わかっているので大丈夫ですよ」


 頭を下げる侍女に苦笑しながら返し、朝食に手をつける。

 

 リンエルが災害に見舞われた際、食料はほぼ底を尽きかけていた。そこらに生えている雑草を食べるしか手はなくなっていた頃に、ライナストンからの支援が届いた。

 まだ完全に復興しているとも言い難いため、その支援はいまだに続いている。

 生きるか死ぬかの瀬戸際で救われ、しかも私と引き換えに安定するまでの支援を約束されたのだから、我が国のライナストンに対する感謝の意は言葉では言い表せないほどだ。


 もしも夢のとおりに事が運んだとして、私が身を投げても父も母も、兄弟すらも文句を言うことはなかっただろう。

 むしろ、自ら選んだとはいえ死なせてしまったことに謝罪の品を送られ、感謝すらしていたかもしれない。

 彼らからしてみれば役立たずの姫がひとり、死んだだけなのだから。


 夢を見てからあまり時間が経っていないからか、どうしても夢の内容ばかり思い出してしまう。

 滅入りそうな気持ちを落ち着けるために、瑞々しいサラダや柔らかいパンに集中する。分厚いベーコンとスープはほどよい塩味で、沈んだ気持ちのまま食べるのは料理を作ってくれた彼らに申し訳ない。


「おいしかったと、彼らに伝えていただけますか?」

「かしこまりました」


 空になった食器が下げられると、こほんと小さな咳払いが落とされた。


「結婚の準備を進めるようにとのお達しですが……何からはじめましょうか。ドレスの仮縫いや、式で使う予定の花などは手配済みですが……選びなおされますか?」

「……そうですね。それでお願いします」


 そのままでも構わないけれど、用意されたものは急いで進められた式にふさわしいものばかりだった。

 一年後に開かれるであろう、オーギュストと、彼が愛した女性の結婚式には間違いなく似合わない。

 

「かしこまりました。早くても明日には商人をお呼びできるかと思います」


 呼びました、はい来ました、とはいかない。

 仕立て屋や花屋、それから装飾品の類を頼むために宝石商にも文を飛ばし、城に到着したらしたで身分証の確認や危険物はないかなどの確認もしなければいけない。

 入城するためにはいくつかの書類にサインもしないといけないので、どうしても時間がかかる。


「でしたら今日は……城内を案内していただけますか?」

「かしこまりました」


 この城のどこに何かあるのかは、大体把握している。

 けれど誰がどんな仕事を、どこまでしているのかまでは大まかにしか知らない。どんな風に壺を磨くのか、壁や廊下をどうやって掃除するのか。

 そんな仕事風景が見られれば、自分にもできそうかどうか考えることができる。



 そうして城内を一通り案内してもらい、最後に向かったのは騎士の宿舎。


 ライナストンには騎士団がいくつかある。国境沿いを守る騎士団や、各地に派遣されている騎士団。そのほか色々あるなかで、王城の宿舎を利用しているのは、王都を守護する騎士団だ。



 騎士として採用されれば一代限りの騎士爵が与えられ、さらに功績をあげれば男爵位以上の爵位が与えられることもある。

 そのため、貴族の次男や三男以降や、意欲ある平民が立身を夢見て騎士になることが多い。


 なんとしても手柄をあげたい者は国境沿いの――とくに紛争になりやすい、危険な地域を希望する者もいる。

 各地に派遣される場合は監査や観察が主な職務となるので、危険な目に遭うかもしれない可能性は高くない。そのため、のんびりと過ごしたい人が多かった。

 そして王都を守護する騎士団は、その中間だ。

 王族を護衛する騎士になれれば名誉であるし、長く勤めることができれば爵位も得られるかもしれない。

 あまり危険な目にも遭いにくく、それでいて爵位を得られるかもしれないという、丁度良い具合の職場だった。


 だがその代わりに、ある程度の身分や教養が必要となる。城を警護する彼らは、他国から来た貴賓の目にさらされることがほかの騎士よりも多い。

 だから王都の騎士団は貴族だけで構成されている。万が一にも失礼がないように。


「このたびはライナストンにおいでいただき、ありがとうございます」


 堂々とした立ち姿で騎士の礼をとる青年に、淑女の礼で返す。

 不安そうに視線をさまよわせていたシェフとは違い、こちらを真っ直ぐに見つめているのは、彼が貴族の出身でこういった場に慣れているからだろう。


「こちらこそ、出迎え感謝いたします」


 予知夢の中の私は、お飾りの王妃でも王妃であることには変わりなく、専任の護衛騎士がついていた。

 侍女のように入れ替わることはなかったけど、とても生真面目な人で職務中だからと雑談の一つも交わせないまま、終わった。


 今の私は王妃ではないけど、いずれ王妃になる立場。護衛騎士をつけられる可能性が高い。同じ人になるかはわからないけれど、欲を言えばもう少し柔軟な対応ができる人がいい。


 お忍びでの遊びに付き合ってくれたり、ちょっとした雑談を楽しめる相手だと、こちらとしても楽だ。


「ひとつお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか」

「はい。私に答えられることでしたら」

「護衛の騎士をつけていただく場合、どなたが私の専属騎士になるのかご存じですか?」

「それは……ただいま選抜中ですが、近日中には専任の者が挨拶にうかがうかと思います」


 わずかな言いよどみは、本来用意していた相手ではなくなり、別の者を――王妃ではない私に誰をつけるかを相談している段階だからだろうか。

 なんにしても、選抜中だというのなら少しぐらい欲を挟んでもいいかもしれない。


「そうなのですね。それでは少しだけ……お願いをしてもよろしいでしょうか」


 短く切られた赤い髪に緑の目。王都の騎士団で副団長を務める彼ならば、私のわがままを聞き入れ、それに合わせた人を選んでくれるはず。

 期待を込めて言うと、副団長は話の先を促すようにじっとこちらを見下ろした。


「できればで構わないのですが……多少融通の利く方ですと、嬉しいです」

「融通の……と言われますと、どの程度でしょうか」

「私は今はまだ王妃ではございません。朝から晩まで気を抜くことなく職務をまっとうされる方ですと、少し申し訳なく思ってしまうのです。ですので、ちょっとしたお喋りに付き合ってくださると、私としても気が楽なので……」


 ふむ、と呟きながら副団長の目が宙を泳ぐ。誰がふさわしいか、頭の中で考えているのだろう。

 王都を守護する騎士団――別名、紫の騎士団。王家の色をその名に掲げる彼らは、人数が多く、みな確かな腕を持っている。だから性格の面を考慮して専属騎士を選抜することは難しくない。


 そんな私の予想に反することなく、副団長は難色を示すことなく頷いた。


「かしこまりました。その旨、団長にお伝えいたします」

「ええ、よろしくお願いします」


 もっとわがままを言えば、交友関係の広い人がいい。仲よくなっておけば、王妃候補の座を辞したあとに、どこか働き先を紹介してくれるかもしれない。


 だけどさすがにそこまで言うわけにもいかず、そのあとは軽く騎士団についての紹介をされて宿舎をあとにした。


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