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お飾り王妃は愛されたい  作者: 木崎優


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12/15

12話

  空になった食器が片付けられる。そして同時に、部屋のすみに控えていた侍女や給仕人も部屋から出て行った。

 

 残ったのは私とオーギュストのふたり。完全に人払いをしたということは、ほかの誰にも聞かれたくない話をする、ということだろう。

 ものすごく嫌な予感がする。


「それで……本日はどうされましたか?」


 嫌な話はさっさと済ませるに限る。談笑すら挟まず話を切り出した私に、オーギュストの視線がわずかだが揺れた。


「先日の……結婚についてだが」


 予想していたとおりの話に、ため息がこぼれそうになる。

 言い渋っているということは、まず間違いなく私には悪い話のはずだ。


「継続することに決めた」

「……どうしてなのかをお聞きしてもよろしいですか?」

「今さら結婚するのをやめたとなれば、理由を追求されるだろう。元より、この結婚は政略でしかない。君もそれでいいと頷いただろう」


 政略であることは理解しているとたしかにうなずいた。

 だけど私はオーギュストが描いていた王妃像には合致しないと、先日話してわかったはず。それでも継続すると決めたということは――新しい王妃を探すのが面倒になった、ということか。


「だが、子を産めるとなれば話は変わる。そのため、ひとつだけ条件を加えさせてもらう」

「……なんでしょうか」

「他の男と情を交わすことがないようにしてもらいたい。勝手に子を宿されてはかなわんからな」

「なっ……」


 言葉を失い目を見開いた私に何を思ったのか、オーギュストの眉間に皺が刻まれた。


「不服か」


 はあ、と落とされる深いため息。


 私はこの人の妻でいる間、誰かと愛を交わそうと思ったことはなかった。

 愛されたいと願ったのは、彼の妻をやめると――人生を終わらせると決めた、あの瞬間だけ。


「……陛下が心配されているようなことは起こらないので、ご安心ください」


 夫婦らしいことは何もなくても、二人で過ごす時間すらなくても、ほかの人を愛していても。

 誰かになぐさめてもらおうとはしなかった。オーギュストがしているのだから、自分も、とは考えなかった。


「私は、結婚した相手とだけ生涯を共にすると決めております」


 だから、私を愛さない彼とだけは結婚したくない。


「お話は以上でしょうか」

「あ、ああ」

「それでは……失礼いたします」


 頭を下げて食堂を出る。

 結婚の話が立ち消えにならないのなら、やはり一刻も早くなんとかしないと。

 思っていたような王妃にならないのに、面倒だからという理由でそのまま話を進めるオーギュストのことだ。私との結婚の準備が終盤まで進んでいたら、レイチェルと愛し合っていても私と結婚するかもしれない。

 今さら準備をやり直すのは面倒だし、仕事に差し支えるからという理由で。




 そうして部屋に戻った私は、お茶の準備をしていた侍女に話しかける。


「オブライエン伯爵家のご令嬢を招待したいのだけれど、任せていいかしら」



 一刻も早くなんとかするためには――オーギュストとレイチェルの関係を早める必要がある。彼らが愛し合う一年後まで悠長に待っていられない。

 さっさと愛し合ってもらって、お役ごめんにならないと、私に逃げ道はなくなる。


「かしこまりました。ご希望の日取りはございますか?」

「そうね。早ければ早いほうがいいわ」


 レイチェルを城に度々呼んで、どうにかオーギュストと親密になってもらわないと。

 問題は、オーギュストをどうやって執務室から引っ張り出すか、だ。


「煙でも炊いてみようかしら……」


 ねずみを燻りだすのは煙が一番らしい。


「どうかされましたか?」

「いえ、なんでもないわ。せっかく招くのだから、どう歓迎するかを考えていただけよ」


 とはいえ、オーギュストを焼死させようとしたと勘違いされたら困るので、この案はさすがに使えない。

 まずはレイチェルと親密になり、頻繁に城に呼んでもおかしくない関係を築くのが先決か。そのあとで、オーギュストを引っ張り出す方法を考えるとしよう。


「レイチェル嬢を気に入られたんですか?」


 部屋の隅に控えていたレナルドが、手紙の用意をしてくるからと侍女が部屋を出たのを見計らって尋ねてきた。

 なんとも微妙そうな顔をしているのは、この間私とレイチェルが顔を合わせたときにそこまで親密そうではなかったから、かもしれない。


「ええ、そうね。かわいらしい人だと思ったわ。……そうだわ。もしよければ、彼女のことを教えてくれないかしら。どんな些細なこともでいいの。仲良くなるにはどうすればいいかしら」

「俺もそんな詳しいわけではないですが……そうですね……花とか甘いものとか……まあ、そこらの令嬢が好きそうなものは好きだと思いますよ」

「なら庭園でお茶をするのがよさそうね」


 もう少し踏み込んだところまで聞きたいが、レナルドはレイチェルとほとんど話したことがないと言っていたから、これ以上は何も知らない可能性が高い。

 根掘り葉掘り聞いて何か裏があるのではと怪しまれても困るので、あとは本人と話して探っていこう。


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